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KTM RC390 中野真矢インプレッション|妥協なきミドルスポーツ

鮮やかなオレンジが特徴となっているオーストリアのバイクメーカー・KTMの、ミドルクラスのフルカウルスポーツ・RC390がフルモデルチェンジ。MotoGPマシン・RC16由来のスタイリングとテクノロジーを採用し、ストリートからサーキットまで、幅広いフィールドで刺激的な走りを実現した。

KTMに対しては、ダカールラリーや2ストロークのエンデューロマシンなどオフロードのイメージが強かったです。でもフランスに住んでいるころにデュークが流行り、多くの人が乗っているのを見て”おもしろいバイクを作るメーカーだな”と思っていました。そのうちロードレース世界選手権に出場するようになり、今ではモトGPの全クラスに参戦。上位争いをする実力があるメーカーだと感じています。

そんなメーカーからリリースされた新型のフルカウルスポーツなので、乗る前は先代よりもさらにアグレッシブな走りをするのではないかと想像していました。最初に見て感じたのは製品のクオリティが上がったなということ。LEDヘッドライトや空力特性が高そうなスクリーンを備えたカウルをはじめ、フルカラー液晶メーターやトップブリッジまわり、ガソリンタンクやシートの質感までミドルクラスのバイクとは思えないほど。デザインもモト3マシンっぽくてカッコいい。良いですね!

電子制御も進化しています。3軸のIMUを搭載してコーナリングABSやトラクションコントロール、またリアブレーキだけABSを解除するスーパーモトモードも装備。さらにシフトアップ/ダウンともに有効なクイックシフト+もオプションで用意されている(今回の試乗車には装備済み)。このクラスとしてはトップレベルの内容です。KTMが新型RC390にかなりの力を入れていることが伝わってきます。

ライディングポジションはスポーツ走行しやすいもの。しかもハンドルバーの高さを10㎜上げられるというから街乗りやツーリングでも十分に使えるでしょう。ステップは思ったよりも高め。とはいえヒザの曲がりはキツくなく、ゆとりもあります。これも街乗りを想定していますね。

走り出して感じたのはエンジンが想像以上になめらかだということ。回転を上げていくとどこかで急にパワーバンドに入るかと思ったんですがそれがない。フラットに回転が上がっていくので、最初はどこでトラクションをかけていいかわからなかったほど。でも美味しいところが6000〜10000rpmくらいだとわかってからはペースが上がっていきました。でも決して悪い印象ではありません。ストリートでは扱いやすく疲れにくい特性。スペック上の最高出力はそのままでトルクアップしつつフレンドリーさも向上していて、進化を感じる部分です。

ハンドリングは素直で軽快。ただしノーマル状態だとサーキットで使う高速域で切り返すとき、ハンドルに入力するとややソフトに感じることも。そのあたりは重量車と異なり、余計な力を加えずスムーズに走ることを意識したほうが良い結果につながります。挙動が軽いがゆえに当初はタイヤの接地感が薄く感じましたが、僕が大排気量モデルばかりに乗っていた影響も大きいかなと。慣れてくるとスロットルを開けるタイミングなどがわかってきました。

サスペンションはストリートに合わせてセッティングしてあるから当然なのですが、サーキットでは少し動きが大きいです。ストレートが下り坂のため、1コーナーの進入でフロントが一気に入りすぎてしまいます。新型のWP製APEX倒立フロントフォークはオープンカートリッジ式でコンプレッションとリバウンドが調整可能なので、3クリックほど締め込んだらやや改善しました。その後、リアショックのプリロードを2段階上げてリバウンドを2クリック締め込んだらこれが成功。フロントの動きも落ち着いて早く向きを変えられるようになり、コーナーの脱出速度が上がりました。サスペンションの調整に対して車体が素直に反応してくれるのも良いですね。

画像の説明

KTM RC390

思い切り回せるエンジンと、進化した車体がベストバランス

会場には前後サスペンションをWP製の精度が高いものに変えた試乗車も用意されていました。フロントはオープンカートリッジ式で内部をごっそりと入れ替える方式。プリロード調整が可能になり、コンプレッションとリバウンド調整も、よりきめ細かく広範囲に行なうことができます。リアはリザーバータンクが別体になり、こちらもリバウンドとコンプレッションの調整が可能に。

さっそく試乗してみると、挙動の質感が向上していることがわかりました。調整範囲が広いのでサーキットにピッタリの装備。こちらも調整をしながら乗っていると、ラップタイムがどんどん上がってきました。このバイクは本当におもしろいです!

ただこのサスペンションキットはサーキットだけのものじゃないことも感じました。動きがよりしなやかになるので、あらゆる速度域で乗り心地がよくなるのです。つまり街乗りでも効果が体感できる。ライトウェイトスポーツを操ることがさらに楽しくなる足まわりになります。今回試乗車にセットしてあるサスペンションの販売価格は前後で22万8280円。決して安くはないですが、非現実的な価格でもない。導入を一考したくなる装備だといえます。

空力特性が高いスクリーン内に近代KTMのアイデンティティを受け継いだLEDヘッドライトやLEDウインカーを内臓
高回転までスムーズに伸びる単気筒エンジンを搭載。軽量化に重点を置いて開発されたフレームは先代より1.5kg軽い
クラッチ操作をせずにシフトアップ&ダウンができるクイックシフト+をオプションで用意。バンク角は深めの設定
シングルサウンドが吐き出されるサイレンサーエンドはネット形状。独特なデザインのスイングアームはアルミ製だ

それ以外にもアクラポヴィッチ製スリップオンマフラーやシングルシートカウル、オレンジアルマイトの切削カバー、レーシーなグラフィックといった純正オプションが多数用意されています。それらを見ると、KTMはユーザーの気持ちを盛り上げるのがうまいなと思いますね。

RC390は排気量から入門モデルと受け取られかねないですが、内容はそのレベルを越えています。日本メーカーだと規制などを気にしすぎる部分もあるのかもしれませんが、KTMは思い切った製品作りをしています。しかもその際にパフォーマンスだけじゃなく、乗り味のフレンドリーさにまで注力してテストライダーが作り込んでいる感じを受けます。そんな妥協しない攻めた姿勢が”READY TO RACE”に集約されているように感じます。

レーシングマシンに憧れる若いライダーはもちろん、大排気量車に乗り慣れたベテランライダーであってもスポーツライディングを楽しめるミドルスポーツ。一度乗ってほしいバイクです。

(中野真矢)

画像の説明 【画像の説明】 【画像の説明】
フルカラーTFTカラーディスプレイを採用。円形のタコメーターを中心にスピードや燃料計、距離計など を配置。左ハンドルのボタンでABSやトラクションコントロールのモードセレクトなど各種設定ができる
リアのWP製モノショックはリンクレスで、アルミ製スイングアームにつながる。トレリス形状のシートレールは、メインフレームにボルトオン式となった
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WP製の倒立フロントフォークはオープンカートリッジ式。左にコンプレッション、右にリバウンド調整機能(各30クリック)を備える。ホイールは新設計され前後で3.4kg軽くなった。ディスクローターも軽量化に貢献

純正オプションとしてPOWER PARTSを用意

多くのブランドロゴが入ったグラフィックキットやアルミ削り出しパーツなどでレーシーな雰囲気に。純正オプションパーツだけでこの仕上がりになる
タンデムシートを外してシングルシートカウルを装着。ライダー側には座り心地が向上するエルゴシートも用意される
カーボンタイプのアクラポヴィッチスリップオンサイレンサーは、高いパフォーマンスを発揮するよう設計されている

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