TRIUMPH STREET TRIPLE 765 RS/R】麗しき正常進化
スペインで行われたトライアンフ・新型ストリートトリプルの試乗会に世界王者・原田哲也さんが参加。ヘレスサーキットと公道を堪能し、もともと好みというストリートトリプルのさらなる進化を確認した。よいバイクを、さらによく。それは麗しきアップグレードだった。
PHOTO/TRIUMPH TEXT/G.TAKAHASHI 取材協力/トライアンフモーターサイクルズジャパン
素早い倒し込みと向き変えで理想通りの走りができる
スペイン・ヘレスサーキットを訪れるのは、’02年に現役GPライダーを引退して以来だから、21年ぶりだ。
ここは、僕がGPに行くきっかけを作ってくれた若井伸之くんが、不慮の事故で亡くなったサーキット。当時とは場所が変わっていたが、フラミンゴのモニュメントに行き、挨拶をしてきた。
ヘレスで行われるのは、個人的にも好きなバイクであるトライアンフ・ストリートトリプルの新型試乗会だ。標準モデルのR、上位モデルのRS、そして世界限定各色765台のMoto2エディションの3モデルがリリースされたが、ヘレスで試乗したのはRSだった。
標準モデルRとの違いは、リアにオーリンズ製サスペンションを装備していること、シート高が10mmアップしていること、ハイパフォーマンスタイヤであるピレリ・ディアブロスーパーコルサSP V3を履いていること、そしてエンジンが10㎰アップしていること、などとなっている。
つまりRSは、よりスポーティなバージョン。その真価は、ヘレスサーキットで存分に発揮された。とにかく楽しい! 実は前日に公道でRとRSの両方に試乗している。詳しくは後述するが、公道で感じられる両モデルの差はわずかだった。そのわずかな差が、サーキットでは効いてくる。RSは、Rに比べてハンドリングが若干クイックなので、その分、サーキットでのスポーツ走行で思いのままに車体を操れて、非常に気持ちいい。
こちらの操作に対して俊敏かつ忠実に反応してくれるから、ブレーキングから倒し込みにかけての一連の動きに気になる待ち時間がない。だから素早く向きを変え、素早く立ち上がりの体勢を作ることができる。これは僕好みのライディングスタイルだし、多くのライダーにとって安全と言える走りだと思う。
そして立ち上がりではスロットルを開けていくのだが、ここも気持ちのいいポイントだ。しなやかに作動しながらもコツがあるオーリンズ製リアサスペンションと、どの回転域からでも望んだだけのツキが得られる直列3気筒エンジンの特性により、トラクション感が豊かなのだ。
ヘレスサーキットには、ブラインドながらスロットルを開けていけるコーナーがあるのだが、RSは、そこを開け開けで抜けていくのが本当に楽しい。
そこに輪を掛けてくれるのが、直列3気筒エンジンが奏でるサウンドだ。乾いたエキゾーストノートは低回転域では野太く、高回転域では甲高く、といった具合で、回転域によって表情を変える。
他メーカーにも直列3気筒エンジンを採用するバイクはあるが、エキゾーストノートに関してはトライアンフが飛び抜けていると思う。
さらに言えば、エンジンの回転上昇フィーリングは従来型より上質になっていた。従来型でも十分に満足できる仕上がりだったが、新型は振動が減り、さらにスムーズに。
ギア比もクロスレシオに変更されており、特にシフトアップ時の回転の落ち込みが減っているから、加速の爽快感は相当にアップグレードしている。
トライアンフは’19年から現在に至るまで、Moto2にワンメイクエンジンを供給し続けている。前夜のプレゼンテーションで開発チーフエンジニアにMoto2用エンジンとの違いを尋ねると、シリンダーヘッドと動弁系などに違いがあるものの、腰下は共通しているとのことだった。
Moto2マシンは140㎰以上と言われているので、130㎰のRSにはかなりの余裕がある。その余裕を、質感の作り込みに振り分けていると考えれば、RSの上質なエンジンフィーリングも頷ける。
とは言え、僕がRSでヘレスを走りながらもっともうれしく感じたのは、無理のないペースでも十分に楽しめたことだ。心にゆとりを持ちながら、バイクの操作を堪能するのに、ストリートトリプルRSはぴったり。本誌ライディングパーティなど、サーキット走行会に参加するライダーにおすすめしたい1台だ。
万能なRとアスリートRS明確な個性の違いも魅力だ
話は前後するが、ヘレスサーキットの前日に、スペイン郊外の田舎道を中心とした公道試乗が行われた。舞台となったのは、ゆるやかなアップダウンとゆるやかなコーナーが続く、快適なワインディングロードだ。
公道ではRとRSの両方を走らせることができたが、最初に乗ったRの出来の良さには驚かされた。
僕はもともとストリートトリプルが好きで、個人的にも乗らせてもらっていたほどだ。だから正直なところ、新型の試乗にあたっては「あれよりいいバイクになっているのだろうか」と、少し不安もあった。
だが、標準モデルのRでも、従来型を上回るエンジンの滑らかさだ。もともと少ない振動がさらに減り、ユーロ5に対応しつつも低回転域から十分なトルクを発生している。
130㎰のRSに対し、Rは120㎰だが、公道の速度域では10㎰差はほとんど感じない。シート高がRSより10 ㎜低く、ハンドルは高めにセットされている分、ポジションはアップライトで快適だ。
若干腰高で、フロントタイヤへの荷重を意識するスポーティなRSに比べると、Rはハンドリングもマイルド。RSと比べると、どちらかと言えば安定志向が強く、落ち着きがある。個人的には、これぐらいオールマイティな特性の方が、公道に向いていると思う。ツーリングから街乗りまで、幅広い用途に使っても気疲れしないはずだ。
スポーツネイキッドと呼ぶにふさわしい元気さながら、行き過ぎず、公道に最適な「抑え」が絶妙だ。上位モデルのRSは、公道でも素晴らしかった。またがった瞬間に気付くほどサスペンションのダンピングが効いており、交差点を曲がるだけでも接地感の高さが分かる。
特筆しておきたいのは、タイヤだ。RSが履くピレリ・ディアブロスーパーコルサSPV3はハイグリップとしなやかさを併せ持っている。
公道の路面に見られる細かい凸凹をいなしてくれるから乗り心地がよく、がっちり路面に食いつく感覚もあるので、安心だ。個人的には、公道オンリーならR、サーキットも走りたいならRS、という印象を持った。キャラクターが明確に分かれているのも、ストリートトリプルの魅力と言える。
STREET TRIPLE 765 RS
STREET TRIPLE 765 R
STREET TRIPLE 765 RS | STREET TRIPLE 765 R | |
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エンジン | 水冷4ストローク 直列3気筒DOHC4バルブ | ← |
総排気量 | 762cc | ← |
ボア×ストローク | 77.9×53.3mm | ← |
圧縮比 | 13.24:1 | ← |
最高出力 | 130ps/12000rpm | 120ps/11500rpm |
最大トルク | 80Nm/9500rpm | ← |
変速機 | 6段リターン | ← |
クラッチ | 湿式多板 スリップアシスト | ← |
フレーム | アルミツインスパー | ← |
キャスター/トレール | 23.2℃/96.9mm | ← |
サスペンション | F=ショーワ製 Φ41mm倒立BPF R=オーリンズ製 STX40 ピギーバックモノショック | F=ショーワ製 Φ41mm倒立 SFF-BP R=ショーワ製 ピギーバックモノショック |
ブレーキ | F=φ310mmダブルディスク+ブレンボ製Stylema4ピストンキャリパー R=φ220mmシングルディスク+ブレンボ製2ピストンキャリパー | F=φ310mmダブルディスク+ブレンボ製4ピストンキャリパー R=← |
タイヤサイズ | F=120/70ZR17 ピレリ製ディアブロスーパーコルサSP V3 R=180/55ZR17 ピレリ製ディアブロスーパーコルサSP V3 | F=120/70ZR17 コンチネンタル製コンチロード R=180/55ZR17 コンチネンタル製コンチロード |
全長×全幅×全高 | 2050×790×1065mm | 2055×790×1045mm |
ホイールベース | 1400mm | ← |
シート高 | 836mm | 826mm |
車両重量 | 189kg | 190kg |
燃料タンク容量 | 15L | ← |
価格 | 149 万5000円~ | 119万5000円~ |