【KAWASAKI ELIMINATOR SE|インプレッション】守備範囲が広い新生スポーツクルーザー
今春の国内モーターサイクルショーで突如として世界初披露された、かつてのモデルから車名を受け継ぐ完全新作クルーザーが、早くも国内デビュー! Ninja400譲りの398cc水冷パラレルツインエンジンを搭載した爽快モデルは、新たな二輪ユーザーの誕生を後押ししつつ、ベテランにも魅力を投げかける。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA 取材協力/カワサキモータースジャパン 70120-400819 https://www.kawasaki-motors.com/mc
クルーザーにも合う素性のいいエンジン
カワサキは今年3月に開催された大阪モーターサイクルショーで、かつてさまざまな排気量でシリーズ展開されてきた「エリミネーター」の復活作となる新型クルーザーを世界初披露。それからわずか1カ月後の4月25日に、日本国内での販売を開始した。
注文が入荷予定台数を大幅に上回り製品供給が追いつかないことが予想されている状況ながら、ショーでの反響が大きかったことから早期発売開始を決断。そして5月中旬には、メディア向け試乗会も実施された。
「ターゲットユーザーをコアなモーターサイクルファンに限定しない」などの狙いもあり、車名に排気量を示す数字は入っていないが、新型エリミネーター/SEはオンロードスポーツモデルのNinja400やZ400と同じ398㏄水冷並列2気筒エンジンを採用して設計された〝ヨンヒャク〞だ。専用高張力鋼管フレームを用いた車体はロー&ロングで、かつてのエリミネーターを思わせる水平基調のデザイン。ちょいワルな雰囲気もある。
今回試乗したのは、ビキニカウルやミツバサンコーワ製の前後ドライブレコーダー、防水のUSBタイプC電源ポート、フロントフォークのブーツ&カバー、ツートーンの専用シート表皮を装備した上級版のエリミネーターSE。とはいえ基本的な走行性能は、標準仕様も同様だ。
実車を見ている段階では、車体にそれほどコンパクトな印象を持たなかったのだが、跨るとやや拍子抜けするほど小さく、それだけでフレンドリーに感じる。ライディングポジションは、クルーザーというよりネオクラシック系のネイキッドに近い。ただし、シートはかなり低い。
操作荷重が極めて軽いクラッチレバーに感心しつつクラッチをつなぐと、車体はスルスルと前に進む。エンジンの仕様や特性は「Ninja400やZ400と基本的に同じ」とのことで、最高出力や最大トルクの数値も同一だが、クルーザーの走行シーンに適応する低中回転域トルクは十分にある。リアタイヤの外径がほぼ同じで、ドリブンスプロケットが41→43Tとわずかながら加速重視方向になっていることも、こう感じさせる要因につながっていそうだ。
400㏄クラスのエンジンながら、2500rpmくらいから十分に実用可能で、6速50km/h走行でものんびり走るならストレスはない。6000rpmあたりから明確に元気がよくなるが、市街地ならこれ以下の領域だけで交通の流れもリードできるし、スムーズな加速も楽しめる。Ninja400のエンジンがここまでクルーザーの走らせ方とマッチすることに、ちょっと驚かされた。
ちなみに6速トップギアでの高速巡航では、100km/hで約6000rpm、120km/hで約7000rpmといったところ。7000rpm以上だと、細かい振動がシートなどから伝わる量が増えるのだが、それ以下の回転数で十分巡航できる。
一方、高回転域では伸びやかな加速が楽しめるというのも、このエンジンの特徴。ワインディングロードでは、低い速度域でこれを味わえる。ハンドリングも、クルーザーとしてはとてもナチュラルで軽快。フロントタイヤが130幅の18インチ径でホイールベースが1520mmもあることから、「ベタッと寝るだけのバイク」を想像していたが、実際には「意外なほどクイック」だ。
クルーザーの中には、オンロードスポーツ系に慣れ親しんだライダーが戸惑うようなクセのあるハンドリングのモデルもあるが、エリミネーターにそのようなフィーリングは皆無。高速域ではロングホイールベースがもたらす直進安定性も増すが、基本的には素直で軽快だ。
それだけに、ベテランライダーが乗ったときに唯一不満に感じそうなのがバンク角。車体を寝かせるのがイージーなので、すぐにステップが接地する領域に持ち込めてしまう。もちろん、エリミネーター/SEがロードスポーツ系とは異なるカテゴリーのバイクであることは理解しているが、それでも浅めのバンク角が気になるほど、このバイクはハンドリングや運動性能にも優れている。
なお今回は、純正アクセサリーに設定されているハイシートでも、それなりの距離を試乗させてもらった。スタンダードは735mmのシート高で、身長167cmの筆者でもステップに足を置いたときに膝が90度に曲がる。ハイシートに換装することで、よりゆったりとした乗り心地を得られると考えたためだが、基本的にこれは大正解だった。
シート高が30mmアップした効果により、膝の曲がりにゆとりができたのに加えて、クッションの厚みが増したことで、ギャップ通過時の快適性も向上した。シートに対してステップがやや前にあり、ギャップ通過時にスッと腰を浮かすことが難しいので、シートによる衝撃吸収性のアップはとてもありがたい。ただし、体重を面で受け止めてくれるようなフィーリングは、スタンダードシートのほうが上回っており、こちらも捨てがたかった。
残念ながら今回は、SEに標準装備されているドライブレコーダーの使用感をチェックすることはできなかったが、いずれにせよ〝ドラレコ標準装備〞に新時代到来を感じずにはいられない。またスタンダード仕様とSEともにETC2.0車載器も装備されていて、全体的にはシンプルにまとめながらも現代のライダーが求めるアイテムを盛り込んでいるところにも好感が持てる。
もちろん、ABSも搭載。これは法規に基づく義務化に対応したものだが、その制御がこのクラスとしてはかなり秀逸で、少なくともドライ路面で車体が直立に近い状態なら、かなり信頼性に優れる点も付け加えておきたい。
とはいえエリミネーターSEがまず誇る長所は、ワイルドなルックス、扱いやすいエンジン特性、軽快なハンドリング、そして意外性を感じるほど楽しめるスポーツ性。そしてもうひとつ、普通二輪免許で楽しめる排気量であるという点だ。
だから、エントリーライダーが初めて乗るバイクとしても、かつて乗っていた普通二輪免許を所持者がリターンするためのバイクにも最適だ。そしてエリミネーター/SEは、ベテランライダーがより気軽にツーリングを楽しむための相棒にも向く。例えばセカンドバイクとして導入すれば、抜群の馴染みやすさで、〝肩肘張らない自在な旅〞を満喫できることだろう。
KAWASAKI ELIMINATOR/SE
- エンジン:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ
- 総排気量:398cc
- ボア×ストローク:70.0×51.8mm
- 最高出力:48ps/10000rpm
- 最大トルク:3.8kgf・m/8000rpm
- 全長×全幅×全高:2250×785×1400(1100)mm
- ホイールベース:1520mm
- シート高:735mm
- 車両重量:178(176)kg
- 燃料タンク容量:17L
- 価格:85万8000円(75万9000円)
- ※( )内はELIMINATOR