原田哲也インプレッション|DUCATI DIAVEL V4【暴力的な加速を手中に収める愉悦】
Lツインを鋼管トレリスフレームに搭載した2019年登場の第2世代から完全刷新され、V4エンジン&アルミ製モノコックフレームを利用して2023年型で登場したのが、ドゥカティが生み出した独自カテゴリーの最新作となるディアベルV4。かつて初代ディアベルを所有していたこともある原田哲さんが、その速さに唸った。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA 取材協力/ドゥカティジャパン 70120-030-292 https://www.ducati.com/
ライパの赤クラスにも加われそうな運動性能
ドゥカティのディアベルは、排気量1198㏄のLツインエンジンを搭載した初代が’11年型で発売され、既存のどんなカテゴリーにも属さないキャラクター、独創的なデザイン、スポーツネイキッドを彷彿とさせるハンドリングや刺激的なエンジン性能で、世界各国のライダーに大きな衝撃を与えた。
’16年型では、派生型としてロングホイールベースでフォワードコントロールのXディアベルが誕生。’19年型では、エンジンと車体ともに刷新され、Xディアベルを追って1262㏄のテスタストレッタDCTエンジンを搭載した、第2世代のディアベル1260 /Sとなった。
そして’23年、ディアベルはフルモデルチェンジにより再び大きな変貌を遂げた。もちろん、クルーザーに近いパッケージながらスポーツ性も重視するという〝ディアベルらしさ〞は踏襲。一方でパワーユニットは、近年のドゥカティがリッタークラスにおいて積極的に導入しているV4エンジンとなり、メインフレームはアルミ製モノコックとなった。
今回、この新生ディアベルV4に試乗したのは、かつてロードレース世界選手権で大活躍した原田哲也さん。現役引退後、原田さんは日本でLツインのディアベル(第1世代)に乗っていた時期もある。「速いよ、これ。恐ろしいくらいに速いよ!」
これが、サーキットでの試乗を終えた原田さんの第一声だった。本来、ディアベルはストリートで楽しむために開発されたバイクではあるが、今回は袖ケ浦フォレスト・レースウェイの貸し切り走行で、ツーリングウエアを装着した状態でインプレッションしてもらうことになった。そのため、日本の公道における速度規制を超えた領域でのテストもできたのだが、「短い袖ケ浦のホームストレートでも200㎞/H到達!」だったようだ。
その話は後回しにして、まずは公道ツーリングを想定したテスト走行でのフィーリングを聞いてみた。「自分がかつて所有していたディアベルとは約10年の差があるので、当然と言えば当然なのですが、全体的にスゴい進化しています。Lツインと比べて優れていると最初に感じるのは、ギクシャク感がないところ。4タイプあるライディングモードのうちアーバンにセットして走りはじめると、ちょっと物足りない感じだったのですが、その上のツーリングなら、ドンッという排気量なりの加速感を味わえました。でもこのとき、Lツインのように荒々しく立ち上がる雰囲気がなく、とても気持ちよくパワーを味わえます」
ちなみに、ライディングモードはスポーツ/ツーリング/アーバン/ウェットの4種類があり、スポーツとツーリングは最高出力が168㎰。ただしツーリングは、スポーツと比べて出力特性が穏やかで、トラクションコントロールとウイリーコントロールの介入度が引き上げられる。アーバンは最高出力が115㎰に抑えられ、スロットル操作に対するレスポンスもよりマイルドに。ウェットは、その名のとおり滑りやすい路面用に設定されている。「自分が公道で乗るなら、ライディングモードは基本的にツーリングを選択すると思います。アーバンだと刺激が足りなく、スポーツだと高速道路ならいいかもしれないけど、公道では過激すぎる印象」と原田さん。操縦性とパワーフィールのバランスに優れるツーリングの特性を高く評価している。
一方、原田さんは車体に関して、とくに「軽さ」に着目する。「もちろん大排気量の重量車ではあるのですが、Lツイン時代と比べて取り回しの段階から軽く、コーナリングも軽快。先代までのほうが直進性は高く、真っすぐ進もうとする感触が強かったのですが、新型はスッとリーンしてくれます。例えば袖ケ浦のヘアピンカーブみたいに、かなりタイトかつ回り込んだコーナーでは、先代までは〝立ち〞が強めで車体が起き上がろうとしやすかったのですが、新型はそれと比べてしっかり旋回を続けようとしてくれます」
ちなみに、車重は先代ディアベル1260Sと比べて13㎏の軽量化を達成。気筒数は増えたが、エンジン単体でも5㎏も軽い。
また、エンジン特性と車体バランスの相乗効果により、「コーナー立ち上がりではトラクションが分かりやすく、安心してスロットルを開けていけます」と原田さん。これらの結果、新型はこれまで以上にスポーティな走行性能を得ている。
さらに、かつて初代ディアベルのオーナーだった原田さんは、快適性の向上にも目を向ける。「初代はこれくらいの気温(25℃)でも足にかなり熱を感じた記憶がありますが、新型は熱さ対策もしっかりされているようです。公道で渋滞にハマるなどのテストをしていないので、どれくらい快適性が確保されているのか明言できませんが、サーキットを全開で走り、その後に50㎞/Hくらいまで速度を落として……なんて走り方をしてみた限りでは、熱さはそれほど問題にならないような雰囲気。気温30℃以上の公道走行で試してみたいところです」
ちなみに新型が搭載するV4グランツーリスモエンジンには、アイドリングや低負荷走行時にリアバンクの2気筒が作動休止する、エクステンデッド・ディアクティベーション・システムも採用されている。
「そもそも新型は完全に別物ですから、〝進化〞と表現するのは違うかもしれませんが、ディアベルというバイクのコンセプトで考えたら、確実かつ大幅に〝進化〞していると思います。乗りやすく、それでいてスポーティ。身長161㎝の自分にはやはり大柄ですが、シートは低めで両足を着いたときには少しカカトが浮く程度。ハンドルは遠めですが、それでも先代と比べれば近くなっています(グリップ位置は2㎝手前)。高速道路メインで旅先のワインディングも楽しみたいというユーザーには、とても向いているバイク。しかもこのルックスですから、好きな人には堪らないと思います」
ところで、話はサーキット走行に戻る。この日、原田さんはツーリングウエアのまま、ときにはかなりの速さでラップする周回もあった。そして原田さんは、サーキットにおけるディアベルのポテンシャルを、以下のように語った。
「とにかくスゴい加速力。今日はレーシングを着ていなかったし、ステップを擦らないよう浅めのバンク角で走ったので、コーナーはゆっくりでしたがそれでもストレートエンドではかなりの速度に到達していました。重量車なのにしっかり止まれるというのも、これにつながっています。本誌が主催するライディングパーティは、この袖ケ浦がホームコースですが、まだまだ走りに余裕があることを踏まえると、もっともハイペースな赤クラスに混ざって走ることも十分可能なはず。このルックスでそこまでのスポーツ性を秘めているというのも、ディアベルV4の大きな魅力です」
【DUCATI】DIAVEL V4 巨体がヒラリとバンクする想像以上のアスリート
- エンジン:水冷4ストローク90°V 型4気筒DOHC4 バルブ
- 総排気量:1158cc
- ボア×ストローク:83×53.5mm
- 圧縮比:14.0:1
- 最高出力:168ps/10750rpm
- 最大トルク:12.8kgf-m/7500rpm
- 変速機:6 速
- クラッチ:スリッパー/セルフサーボ機能付き湿式多板クラッチ
- フレーム:アルミニウム製モノコック
- キャスター:26°
- サスペンション:Fφ50mm 径 フルアジャスタブル倒立フォーク R=フルアジャスタブルモノショック
- ブレーキ:F=ブレンボ製4ピストンラジアルマウントモノブロックキャリパーStylema+φ330mmダブルディスク R=ブレンボ製2ピストンフローティングキャリパー+φ265mmシングルディスク
- タイヤサイズ:F=120/70ZR17 R=240/45ZR17
- ホイールベース:1593mm
- シート高:790mm
- 車両重量:236kg
- 燃料タンク容量:20ℓ
- 価格:299 万9000円~