【 KAWASAKI 900 Super4< Z1 > & Z900RS 】”Z”の原点と現在地を中野真矢が吟味
いまさら言うまでもなく、Z900RSのデザインはZ1をオマージュしている。では、スタイリング以外に継承されていることはあるのか? あるいはオリジナルを知ったとき、Z900RSはニセモノに感じられてしまうのか? Z1よりも後に生まれた中野真矢が、初めてZの源流と対峙した。
PHOTO/H.ORIHARA TEXT/T.TAMIYA
取材協力/カワサキモータースジャパン
https://www.kawasaki-motors.com/
バイク王&カンパニー
https://www.8190.jp/
50年という年月にあらためて、敬意を払いたい
僕が生まれる5年前、’72年に発売が開始されたZ1(900スーパー4)は、’60年代後半に空冷バーチカルツインのW1や空冷2ストローク直列3気筒のマッハⅢで、ビッグマーケットだったアメリカに活路を求めたカワサキが、シェア拡大を目指して並々ならぬ思いで開発に臨んだモデル。当時としては最先端のDOHCエンジンを搭載し、「量産二輪車世界最速」の称号を得ると、アメリカのみならず世界中で爆発的なヒットを記録しました。
’18年型で華々しくデビューしたZ900RSは、そんな’70年代レジェンドバイクのZ1をオマージュしたモデル。開発ベースとなったのはスポーツネイキッドのZ900ですが、Z1とZ900の間に直接的な系譜のつながりはありません。
しかしその点だけにフォーカスして、Z900RSをまがい物と解釈するのはあまりにも早計です。市場はZ900RSという存在を間違いなく肯定的に受け止めていて、だからこそ発売から6年連続で、日本の大型二輪免許クラスでトップセールスを誇ってきました。Z1と同じくZ900RSも、販売台数という点においては〝怪物〞なのです。
両モデルの立ち位置は、それぞれの発売当時、あるいは現在においてもまるで違いますが、Z900RSの魅力をより深く理解するため、絶版車館も展開するバイク王の協力により、今回はZ1とZ900RSの比較試乗を試みてみました。
「カワサキZ」の原点から現在値まで一気に飛び越えてテイスティングしてみると、そこにはほのかに血脈も感じ取れたのです。
クランクの回転を感じる重厚な鼓動に高揚する
これまでZ1あるいはZ2(750RS)に乗った経験は皆無。そもそも、現役レーサー時代までは旧車に触れる機会すらほぼなかったし、30代までは興味の対象となるのは〝最新〞ばかりでした。
しかし40代になって、過去に活躍したモデルたちにも目が向くようになり、それと同時に歴史を知るようになると、〝レジェンド〞と呼ばれるようなバイクにも乗ってみたいと思うように……。もちろん、その中にZ1やZ2も入っていました。
とはいえこれまで、Z1に接する機会はまるでナシ。ベテランライダーの方々からZ1やZ2の伝説を聞くことは多かったのですが、僕の世代だとリアルタイムには程遠いですし、かなりかけ離れたところに存在しているバイクでした。
そんなZ1を、いざ走り出そうと引き起こしたときにまず感じたのは、ずっしりとした車重と、現代のバイクとは明らかに異なるハンドルグリップの太さでした。クラッチレバーにもかなり手応えがあり、この段階で「レトロなバイク」という印象を強く受けます。
走り始めても、現代的なバイクとの違いは明確。例えば加速には、表現が抽象的になってしまいますが、スロットルを開け続けることで轟音を響かせながら「グゥオォ〜」と進んでいく感じがあります。近年のバイクで903㏄の排気量があれば、低回転域トルクの薄さを気にすることなんてまずありませんが、Z1はパワーバンドがはっきりしており、その領域まで引っ張ることで力強さを発揮します。
バイクの気持ちよさは人それぞれかもしれませんが、僕が重視するのは加速しているときの感覚です。Z1は、その点においてかなり刺激的。と言っても、凄く速いということではなく、スロットルを開けながらパワーバンドに入るのを〝待っているとき〞と、そこに達して〝力強くなったとき〞の両方に快感があるのです。低中回転域と高回転域に明確なギャップがあるのですが、パワーバンドに入るのを待っている時間さえも気持ちいいというのは初体験。燃料供給がキャブレターだからということも大きく関係しているかと思いますが、なんともたまらない快感があり、これは現代のビッグバイクにはない特徴だと思います。
ハイスロではないのでワイドオープンが難しく、スロットルを戻せばエンジンブレーキはかなり強め。シフトダウンでは重たいクラッチレバーを操作しながらしっかりブリッピングしてあげる必要があるなど、それなりのスピードで走るには〝ひと手間〞が必要です。でも、それさえも味わいとして肯定できてしまうのは、旧車だからこそでしょう。
引き起こしで重さを感じた車体は、走り出すと意外に軽快。とはいえ、やはり現代のバイクとは違います。 当時は世界最速を誇ったZ1も、50年後に乗ればノスタルジックバイク。ただしそこには心地よさがあり、趣味の乗り物としてその世界観に浸るのは間違いなく快感です。
意のままに得られるパワーが操る悦びを引き出す
さて、そんな極上の時間を味わってから、間髪入れずZ900RSに乗り替えてみると、あまりの違いに驚きしかありませんでした。
まず、車重やクラッチレバー、エンジンレスポンスなど、すべてにおいて〝軽い〞という印象。エンジンではなくモーターバイクのようですし、ブレーキもカチッとしています。
もちろん普段乗ってもZ900RSはいいバイクなのですが、「あれ、こんなに高性能だった?」と、見直さずにはいられません。いつもならそこまでコンパクトに感じない車体も、Z1の後に乗ればかなり小さくて軽快。コントローラブルで、スポーツランディングを不安なく気軽に楽しめます。
そして気づくのです。「そうか、これが50年の進化か!」と。
Z1から見たZ900RSは、まさに未来。同じバイクだけど、別の乗り物という感覚さえあります。Z1の時代から、「もっと速く、軽く、しっかり止まって、乗りやすく、振動を消して……」といったユーザーの要望も反映しつつ、メーカーが半世紀にわたり研究開発を続けてきた結果が、Z900RSということ。Z1と直接的な系譜のつながりはありませんが、モーターサイクルというカテゴリー全体での進化が、50年後のZ900RSに結びつくのです。
ライダーというのはワガママな生き物なので、歴史的により高性能で扱いやすいマシンを求め続けてきたのに、いまの時代にZ1を体験すれば、「この〝間〞がいいんだよ!」なんて簡単に言います。新型として乗りづらいバイクが発売されたら、きっと多くの人が文句をつけるはずなのに……。結局のところ、〝ない物ねだり〞なのでしょう。
Z1に感じる〝味の濃さ〞は、乱暴に言うなら、すべてのフリクションを増やすとか、FIセッティングを大幅にハズすとか、わざと車体を大柄かつ重くすれば、再現できるかもしれません。そして、Z1を知れば、Z900RSにも同じような味をさらに盛り込んでほしいと願いがち。しかしこうやって乗り比べてみれば、この50年間で積み重ねられてきた進化は本当に素晴らしく、それを否定してわざわざ捨てる必要はないと感じます。なぜなら、発売当時のZ1がそうであったようにZ900RSも、その時代のライダーたちに楽しい走りをもたらすバイクだから。余計な味付けを増やさなくても、十分な存在意義があるのです。
ちなみに、スタイリングイメージ以外はまるで異なる2台ですが、低回転域での排気音やゴリゴリとした雰囲気はやや似ています。Z900RSに残されたほんのわずかな〝雑味〞に、Zとしての伝統を重んじるカワサキの姿勢を感じずにはいられませんでした。
(中野真矢)