【トライアンフ タイガー 900 シリーズ×スクランブラー1200シリーズ】英国生まれのアドベンチャー&スクランブラーを堪能
’24年型でアップデートまたはニューバージョン追加が施された、タイガー900シリーズとスクランブラー1200シリーズを、短い時間ながら日本の公道と特設ダートコースで一気乗り。
躍進を続ける英国トライアンフの2シリーズには、ファンライド性能とオリジナリティが溢れていた。
PHOTO/J.YAMAUCHI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/トライアンフモーターサイクルズジャパン TEL03-6809-5233
https://www.triumphmotorcycles.jp/
進化を遂げた3気筒の長所が光るタイガー900
日本や欧州などにおけるアドベンチャーバイクの人気は依然として高く、各メーカーが多彩な車種を市場に導入している。これは英国トライアンフも同様で、いずれも水冷直列3気筒エンジンを搭載したタイガーシリーズとして1200、900、850、スポーツ660を展開している。’24年モデルでは、このうちタイガー900シリーズに、大幅なアップデートが施された。
タイガー900は、タイガー800の後継として’20年モデルで新登場。この際に、888㏄への排気量アップだけでなく「Tプレーン」と呼ばれる独自のクランク構造も取り入れた。従来のトライアンフ製直列3気筒エンジンはクランクピンが120度位相で配置され、クランクが240度回転するごとに1→2→3番シリンダーの順に点火する等間隔爆発。
対してTプレーンクランクエンジンは、1-2番と2-3番のクランクピンが90度ずつ位相され、1→3→2番シリンダーの順で点火されることから、クランクが180 →270→270度回転するごとに点火される不等間隔爆発となる。
そして’24年モデルでは、このエンジンが改良され、最高出力は従来型の95㎰から108㎰に大幅増。さらに、低回転域のトルクと扱いやすさも重視しつつ、ほぼ全域でのパワーアップが実現され、9%の燃費向上も達成しているという。
またこの新型は、座面がよりフラットな新作ライダー側シートやラバーマウントのハンドルバーを採用することで、快適性を向上。急制動時にハザードランプを自動点滅させる緊急減速警告システムの新搭載、新型7インチTFTカラーディスプレイの採用およびスマートフォン連携機能であるマイトライアンフ・コネクティビティの全車標準装備化、外装デザインの刷新なども施されている。
モデルバリエーションは3タイプで、オンロードツーリングを重視したタイガー900GTおよび上級版となるタイガー900GTプロ、本格的なオフロード走行も視野に入れたタイガー900ラリープロから選べる。今回はこの中から、GTプロとラリープロに試乗。
前者はタイトなワインディングと郊外の一般道、後者はフラットなダートのみ20分程度の走行だったが、それでも新型タイガー900シリーズの魅力を存分に味わうことができた。
オンロード派の読者が大多数を占める本誌でこんなことを書くのはやや気が引けるのだが、まず驚かされたのはラリープロのオフロード走行性能。ミドルクラスとはいえ、888㏄の3気筒エンジンを搭載した車体は身長167㎝の筆者にとってかなり大柄で、当然ながらかなり身構えつつコースインしたが、拍子抜けするほど走りやすい。
その大きな要因のひとつとなっているのが軽さ。車重は228㎏あり、〝オフロードバイク〞としてはかなりの重量級なのだが、走らせたときのフィーリングは数値からの想像よりも軽快で、不安は少ない。加えて、前後サスペンションはストロークがかなり長く、しなやかに動くので荷重移動がしやすく、タイヤのグリップやトラクションが分かりやすい。
そして、車体以上にオフロードの走りやすさに貢献しているのが、エンジンの出力特性だ。そもそも不等間隔爆発のTプレーンクランクエンジンには、トラクションを感じやすいという長所がある。
加えて新しくなったこの3気筒エンジンは、3000rpm付近の低回転でもオフロードを走るのに十分なトルクを発揮するが、2気筒と比べればレスポンスが穏やかで、優れたトラクション特性との相乗効果によりスロットルを開けやすい。これが車体姿勢のコントロールしやすさにつながるのだ。
ちなみにこのエンジン、前述した3000rpmあたりだと「ドゥルルル……」という独特の音色を奏でながらもまだおとなしい雰囲気だが、6000rpm付近からは荒々しいサウンドでシャープに吹け上がる。
オフロードで、最高出力108㎰に達するこの領域を使いこなせるライダーはほんのひと握りで、なおかつ発揮できるシチュエーションはかなり限られていると思うが、一瞬でも味わうことができたら、それはもうとろけるような快感である。
そして、このエンジンに与えられた出力特性とフィーリングは、オンロードを走らせたGTプロの楽しさと心地よさにもつながっている。
舗装路を走らせた場合でも、低回転トルクに一切の不満なし。単気筒や2気筒にはない滑らかさもあるが、4気筒ほどダルでスムーズすぎない。独特のトルクフィールと適度に穏やかなスロットルレスポンスが、郊外の道をただ流しているだけで、ライダーを気持ちよくさせてくれる。
それでいて中回転域から上は、スムーズかつシャープな乗り味に変貌。このときの躍動感がとにかくスゴい。今回は短距離の試乗だったが、丸1日乗り続けたとしても、回転数により異なる快感をもたらすこのエンジンなら退屈することはないだろう。
パワーユニット関連では、クイックシフターの作動性と滑らかなシフトタッチも気に入った。低回転域での変速を含め、ショックが非常に少ない。ちなみにラリープロでオフロードを走ったときも、クイックシフターはありがたい存在だった。
ワインディングでのGTプロは、クセのないハンドリングで安定感のあるコーナリング特性。前輪が19インチということもあり、フロントからグイグイ曲がる雰囲気ではないが、自在感もある。
ラリープロと比べたら前後ショックのストロークは短めだが、それでもホイールトラベルはフロントが180㎜、リアが170㎜と長い。そのため、路面が荒れたワインディングでは前後の挙動が大きくなりやすいが、代わりに抜群の快適性が備わっているし、極めてコントローラブルな前後ブレーキとエンジンを駆使しながら、車体姿勢を制御しつつコーナーを駆け抜けるのも、これはこれでスポーティな感覚を得られる。
日本の舗装路限定で乗ることを考えたときには、大きすぎない車格も魅力。確かにデカいがリッターアドベンチャーほど持て余す感触はなく、〝現実的〞な範囲内と言えるだろう。
ラリープロとGTプロともに、旅の快適性や利便性を高める装備も充実。アドベンチャーモデルとしての基本性能は高い。加えて、エンジンには扱いやすさと刺激が同居。その気持ちよさには中毒性がある。「もっと長時間乗っていたい!」これが試乗後の率直な感想だった。
SPECIFICATIONS
TIGER 900 RALLY PRO | TIGER 900 GT PRO | |
エンジン | 水冷4ストローク直列3 気筒DOHC4 バルブ | ← |
総排気量 | 887cc | ← |
ボア×ストローク | 78.0×61.9mm | ← |
圧縮比 | 13.0:1 | ← |
最高出力 | 108ps/9500rpm | ← |
最大トルク | 90Nm/6850rpm | ← |
変速機 | 6速リターン | ← |
クラッチ | 湿式多板 | ← |
フレーム | チューブラースチールフレーム | ← |
キャスター/トレール | 24.4º/116.8mm | 24.6º/102.7mm |
サスペンション | F=SHOWA製φ45mmフルアジャスタブル倒立フォーク R=SHOWA製フルアジャスタブルモノショック | F=マルゾッキ製φ45mmフルアジャスタブル倒立フォーク R=マルゾッキ製フルアジャスタブルモノショック |
ブレーキ | F=φ320mmダブルディスク+ブレンボ製スタイルマ 4ピストンモノブロックラジアルマウントキャリパー R=φ255mmシングルディスク+ブレンボ製1ピストンキャリパー | ← |
タイヤサイズ | F=90/90-21 100/90-19 R=150/70R17 | ← |
全長×全幅×全高 | 2315×935×1452~1502mm | 2305×930×1410~1460mm |
ホイールベース | 1550mm | 1555mm |
シート高 | 860~880mm | 820~840mm |
車両重量 | 229kg | 223kg |
燃料タンク容量 | 20ℓ | ← |
価格 | 197万5000円 | 192万5000円 |
大排気量ツインの鼓動と素直なハンドリング
往年のオフロードスタイルを現代に伝え、仕様によっては本気でダートを走れる性能も備えるスクランブラー1200は、’24年型で熟成とラインアップ見直しが図られた。
そして新登場となったのが1200X。前後とも170㎜のホイールトラベルとなるやや短めのマルゾッキ製ショックを採用してシート高を削減し、装備をやや簡素化することで上位機種のXEと比べて20万円以上の価格低減も達成している。
シート高はXEと比べて50㎜ダウンの820㎜で、身長167㎝で足が短めの筆者でも、両足の指裏あたりまで接地。これまでのスクランブラー1 200に対する印象を覆すような優しさが感じられる。
トラクション特性に優れる270度クランクの1197㏄水冷パラレルツインエンジンは、最高出力と最大トルクの数値こそ従来型と同じだが、吸排気系の見直しなどでその発生回転数はそれぞれ250rpm引き下げられた。低回転域からパンチとツインらしいスロットルレスポンスの良さがあり、パルス感や音色も気持ちいい。
前輪は21 インチ径だが、峠道を走らせてもそこまで大径のホイールを履いているようには感じない。軽快にリーンし、公道で楽しむのにちょうどいい程度の旋回力。しかもハンドリングに変なクセはなく、バイク任せでリズミカルにコーナーをクリアしながら、スポーティな雰囲気を味わうことができる。
ブレーキキャリパーや前後ショックはベーシックな構成だが、電子制御は充実。IMUを活用したコーナリング対応のABSとトラコンも搭載しており、安心感がある。
レトロな世界観をフレンドリーに提供してくれるのが魅力だ。
SPECIFICATIONS
足長の1200XEは’24 年型で熟成。前後サスや前ブレーキの高性能化、吸排気ポートや外観細部の見直しが図られた。オフ車の乗り味……とまではいかないが、フラットダートも走れる本格派!
エンジン | 水冷4ストローク 直列2 気筒 SOHC4 バルブ |
総排気量 | 1200cc |
ボア×ストローク | 97.6×80mm |
圧縮比 | 11:1 |
最高出力 | 90ps/7000rpm |
最大トルク | 110Nm/4250rpm |
変速機 | 6速リターン |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | スチールクレードル |
キャスター/トレール | 26.2º(26.9°)/125(129.2)mm |
サスペンション | F=マルゾッキ製倒立フォーク R=マルゾッキ製 ピギーバックリザーバー付きツインショック |
ブレーキ | F=φ310mmダブルディスク+2ピストンアキシャルマウントキャリパー (. φ320mmダブルディスク+ブレンボ製4ピストンラジアルマウントキャリパー) R=φ255mmシングルディスク+1ピストンキャリパー |
タイヤサイズ | F=90/90-21 R=150/70R17 |
全幅×全高 | 834×1185(905×1250)mm |
ホイールベース | 1525(1570)mm |
シート高 | 820(870)mm |
車両重量 | 228(230)kg |
燃料タンク容量 | 15ℓ |
価格 | 186万2000円~(208万8000円) |