【カワサキ Ninja ZX-6R KRT EDITION】本気で作りこまれた走りを楽しめるサスペンション

レースベースモデルに匹敵する、高いポテンシャルを秘めたNinja ZX-6R。中野真矢さんと平嶋夏海さんの二人が、そのパフォーマンスを引き出すべく、オリジナルのサスペンションセッティングを探る。走り込んで見えたのは、間違いなくレースに連なる熱い血だった。
PHOTO/H.ORIHARA, S.MAYUMI TEXT/K.ASAKURA
取材協力/カワサキモータースジャパン 0120-400819 https://www.kawasaki-motors.com/ja-jp/
スパルタンな600ccスーパースポーツはサスペンションも本格派
中野: 今回、サスペンションセッティングに挑戦するマシンは、カワサキのミドルスーパースポーツニンジャZX-6Rです。いやあ、楽しいバイクだね! カワサキ製スーパースポーツといえば、ニンジャZX-10Rがフラグシップとして存在しているわけだけど、やっぱり200psクラスは、乗り手としては構えちゃうところがある。
平嶋: 中野さんでも、そう感じたりするんですか?
中野: そりゃそうだよ、だって200psだよ?
平嶋: 私だったら、リッタークラスってだけで緊張しちゃいますけど、中野さんは、MotoGPマシンでレースをしていたじゃないですか?
中野: ソレはソレで、コレはコレ。それくらい最近のリッタースーパースポーツは速いしね。その点、ミドルクラスは、もっとライダーに近い。楽しむのにちょうどイイよね。ニンジャZX-6Rのエンジンは、スゴく良く回るし、気持ちイーッ! って感じ(笑)。使い切れる面白さというか……いやあ楽しいね。

平嶋: 私にはオーバースペックなレベルで速すぎるんですけど、軽いし確かに振り回してみようって感じられるバイクですね!
中野: そうだね。そんなニンジャZX-6Rのサスペンションを自分仕様に合わせて、更に楽しめるようにセットアップしてみよう。まず、スタンダードのセッティングで走ってみてどう感じた?
平嶋: いいですよ、走りやすいです。でも、強いて言うのなら、もう少しコーナーでの安定感が欲しいですね。接地感が足りなく感じたのかな? あと、低速のヘアピンコーナーで、バンク角よりステアリングが切れ込んでいく感覚もありました……。このまま乗れと言われたら、全然乗れます。問題ないです。でも、もっと攻められるセットがあるように感じたんですよね。
中野: なかなかカッコいいコメントを頂きました!
平嶋: 私も、長いことやらせてもらってますから(笑)。コーナーからの立ち上がりで、気持ちよく全開に出来ないとも感じました。私のスロットル操作が雑なのかな?

中野: 今回は路面のコンディションの影響が大きかったと思うよ。雨が止んだ後に走り始めたから、路面が濡れていたところがあったでしょ? そういうシチュエーションでは、思い切って荷重をかけた走りは難しい。メンタルの面でも、やっぱり不安に感じるしね。
平嶋: ですよね。
中野: でも、それでいいんだよ。コンディションが悪い時は、慎重過ぎても悪いことはないから。で、僕が感じたのが、コーナーで車体が落ち着かないな、と。前後ともサスペンションがヒョコヒョコ動いてしまう。だから、落ち着かせるために、リアブレーキを踏んだりしていた。ストロークを使い切れていない気がしたんだ。今回みたいなコンディションだと、カタいアシなのかな? と考えたんだけど……。
平嶋: 私は、もっとカタめてみたいって言いましたよね。
中野: うん。だから気は進まなかったけど、プリロードもダンパーも強めてみたら……。平嶋さんの意見が正解だったね。

平嶋: やった! 私のセッティング能力、成長してます?
中野: してるしてる(笑)。僕はむしろ、弱める方向かな? って思ってたからね。でも、それは勘違いだった。走っている時に、サスのストロークを使いきれていないと判断したんだけど、実際は奥まで使い切ってて、サスが動かなくなったせいで、ヒョコヒョコしちゃってたんだね。
平嶋: コーナーでの挙動が落ち着きました。気になっていたタイトなコーナーでのステアリングの切れ込みも解消しましたし、コーナー立ち上がりでも開けやすくなりました! スロットルを全開にするタイミングも早くなった気がしましたね。
中野: 荷重がかけやすくなったせいで、タイヤが温まるのも早くなったことも良い方向に働いたね。どんどん攻められるようになった。フロントの安定性が高まったから、ブレーキングでも、より握り込めるようになったね。ただ、ブレーキをリリースした後のコントロール性が、少し神経質になったとは感じた。
平嶋: 乗り手の操作に対して、シビアに動くようになった気がします。攻めるのにはいいんですよ。ただ、ダラっと乗るには、私には厳しいかな。自走でサーキットに行くのだとしたら、往復の道はスタンダードのセットに戻したいですね。
中野: そうだね。〝攻め〞のセットだね。ペースを上げたい時には、やっぱりカタめる方向を試してみると良い結果が得られるみたいだね。

平嶋: これまで、何台かサスセッティングに挑戦してきましたけど、その傾向が強いって思います。
中野: それなら、と更にカタめたセッティングも試してみました。
平嶋: セッティングチャートのベストセットですね。さらに開けやすくなりました。スロットルを開けた時、踏ん張ってくれる。タイヤのグリップ感が、しっかり伝わってきました。
中野: 良くなったね。特にフロントの〝しっかり感〞が、乗り手に自信を持たせてくれる。ただ、早めにブレーキを離すコーナーでは、フロントが高く感じて、大回りしちゃう場面があった。
平嶋: で、試したのが最後のセッティングですね。
中野: そう。ニンジャZX-6Rは前後ともフルアジャスタブルのショックユニットが装着されているけど、取扱説明書ではリアショックのプリロードは、販売店での調整を推奨しているんだ。だから、今回も、リアのプリロード以外のアジャスト機能のみでセッティング変更を進めてみたんだ。
平嶋: でも、どうしてリアのプリロードだけ、調整しないように推奨されているんでしょうか?
中野: リアショックのプリロードは、ダブルナット式の無段階調整。調整範囲が判りにくいから、無闇にイジって危ないセッティングになるのを避けているのかもしれない。今回はサーキットでの試乗だし、セッティング変更もしっかり管理して行えるからトライしてみました。
平嶋: ベストセットにプラスして、リアのプリロードを強めたんですよね。どうでした?
中野: すごく良くなったね。フロントが高く感じることがなくなった。フロントはどんどんプリロードを高めていたでしょ? リアも高めたことで車体姿勢がバランスした。バイクが〝曲がる〞確信が持てるから、コーナーにより深く突っ込んでいける。突っ込みすぎでブレーキングも激しいから、ABSが利きまくっていたね(笑)。バンクさせた時、バイクの向きが変わるのが早いから、立ち上がりのライン取りもラク。変にマシンを押さえ込まないから、走っていてラクに感じたよ。

平嶋: 攻めのセットですね。でも、私にはちょっとカタいというか、身体的な負担が大きく感じます。カタめていくと、安定感が高まって〝もっとイケる、もっと攻めなきゃ!〞と追い立てられる気がします。常に荷重コントロールを意識しないと曲がらないように感じました。速く走れるセットですけど、乗り手が頑張って動かないとダメ。私のスキルと体力だと、ちょっと厳しいかな?
中野: レースを意識したマシンだからかもね。高荷重に耐えられる車体に設計されているし、サスペンションのキャパシティも大きいから、レースレベルの〝攻め〞のセットにも対応できるってことだと思うよ。排気量が大きくて、600㏄のレースには出られないけど、レギュレーションに合わせたエンジンを搭載するレースベースモデルも存在するからね。
平嶋: ニンジャZX-6Rはレースの血が流れる、ストイックなマシンですね!
今回のセッティングチャート
今回もスタンダードセッティングから試乗を開始。当初はセッティングの方向性について、中野さんと平嶋さんの意見が分かれたのだが、セオリー通りプリロードとダンパーを強める方向でセッティングを進めたのがCASE:1。
CASE:1で好結果が得られたため、さらにプリロードとダンパーを強めたセットを今回のBEST SETとした。ただし、ここまでのセットは取扱説明書に従い、リアのプリロードに手をつけておらず、その結果、動的な車体姿勢が変化し、ネガティブ要素が発生するシチュエーションがあった。
そこで、EXTRA SETとしてリアのプリロードを強めてみたところ、更にスポーツライディング向きとの評価を得ることができた。プリロードとダンパーは、併せて強めていった方が好結果を得られる場合が多い。
だが、無計画に大きな変更を加えると、操縦安定性を損なう可能性も否めない。セッティングの変更は、安全に留意して行いたい。
