【ホンダ CB1000 HORNET SP × スズキ KATANA】スーパースポーツの血を引くストリートファイター

「サーキットでも楽しめるのかな」。2台のストリートファイターを前にして、原田哲也さんは不安そうだった。「ネイキッドはジェントルなバイク」という先入観が、その大きな要因だ。だが走り出した瞬間に、シールドの向こうで笑顔になる。「第一印象は、大きく外れることがない。ストリートファイターは、想定外の楽しさだ!」
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/G.TAKAHASHI
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ネイキッドの枠を超えた高性能がこの2台の魅力
シャープな顔立ち。エッジの効いたフォルム。尖った個性が、そこかしこに散りばめられている。
だが、フルカウルは装備していない。ハンドルポジションはあくまでもアップライトだ。今すぐにでも気軽なツーリングに出かけられそうで、気易いネイキッド然とした出で立ちである。
ではなぜ「ストリートファイター」という戦闘的な呼称が銘打たれているのか。「羊の皮を被った狼」という言葉が、これほど似合うジャンルもないからだ。
超高性能なスーパースポーツモデルから主要コンポーネントを継承しているのだ。「ごく普通のネイキッド」であるはずもない。ひとたびスロットルを捻れば、ネイキッドの枠を超えたパフォーマンスを発揮する。
ほどよく調教されてはいる。だが、並大抵のバイクではない。それがスーパースポーツの血筋を引くストリートファイターの魅力だ。
その代表選手であるCB1000ホーネットSPとKATANAの試乗にあたって、原田哲也さんは少し浮かない顔をしていた。
「ネイキッド……でしょう?」と、不安を隠さない。この手のバイクにほとんど乗ったことがないのだ。「サーキットでも楽しめるのかなあ」と首を傾げながら、原田さんはコースインした。
何でもこなせる懐の深さが時代にフィットしている
コースインのためにピットロードを走り出した瞬間に、マシンの良し悪しが分かった。これは、僕の現役時代の話だ。
新しいマシンが与えられた時、「素性」と呼ばれるような本質的な部分は、直感として即座に分かってしまう。その後、いくら周回を重ねても、また、いくらセットアップを進めても、乗り出した瞬間に感じたことから大きくは変わらない。人の第一印象とは、それぐらい鋭い。
CB1000ホーネットSPで走る前に、僕が先入観だけで想像していたのは、いかにもネイキッドっぽい走りだった。「きっと誰もが扱いやすくて、ジェントルな優等生なのだろう」と、勝手にイメージしていたのだ。

だが、実際に走り出した瞬間、それが完全な誤りだったことに気付いた。「向きを変えよう」と思うと同時に、バイクがスッと旋回してくれたのだ。想像とは真逆の軽快なハンドリングに驚かされると同時に、「このネイキッドは、サーキットでも楽しめる!」というポジティブな直感を持つことができた。
驚きは続く。ホーネット用に改良されたCBR1000RR(’17〜’19年型・SC77)のエンジンは、もちろん速い。にも関わらずピーキー感がなく、低回転域からスロットルを開けやすいのだ。そういう意味では、乗る前のイメージ通り優等生ではある。言葉にすれば「マイルド」となるだろう。しかしこのアグレッシブな速さは、想定の域を超えている。
エンジンモードをスポーツからスタンダードに変更すると、ガラリと様子が変わる。アグレッシブさはすっかり影を潜め、ホーネットSPに乗る前に僕がイメージしていたネイキッドっぽい走りになる。

正直言って、サーキットでは物足りない。サーキットなら、スポーツモードで豪快な加速を思いっきり味わいたくなる。そして、「こんなことを考えさせるネイキッドがあったのか」と、改めて驚かされる。
同じような驚きは、KATANAでも感じられた。KATANAのエンジンは、’05〜’08年型GSX-R1000に搭載されたものを熟成したのだそうだ。
K5と呼ばれるこのGSX-Rのエンジンは、KATANAにネイキッドらしからぬエキサイトメントを与えている。まずピックアップが非常にいい。ヒュンヒュンと軽やかに、そして鋭く回ってくれるから、それだけでテンションが上がる。
このエンジンは名機と呼ばれ、世界各国で高く評価された。スーパースポーツ用エンジンとしてはロングストロークで、それゆえ素性の部分から扱いやすさを備えていたためだ。

ネイキッドであるKATANAは、本来、サーキットよりもストリートユースがメインステージである。だから、軽快な回転上昇と同時に低速域の粘り強さを備えているK5のエンジンをカタナに採用したのは、大成功と言えるだろう。
最初は「サーキットだから」とフルパワーのAモードで走ったのだが、エンジンのピックアップのよさが災いして、サーキットを安心して走るために必要なレベルの接地感が得られなかった。
パワーの入りが強烈ゆえにサスペンションのストロークスピードが速すぎて、路面に十分タイヤが押しつけられる前にスライドしてしまうような感触だ。
このジャジャ馬感こそがストリートファイターというジャンルの魅力なのかもしれないが、サーキットを本気で走るにはちょっと気難しく感じてしまう。

Bモードにスイッチすると、途端にフィーリングが出た。サスペンションのストローク感が得られ、接地感も高まる。攻め込むと滑るのだが、怖さはない。つまり、KATANAのAモードは僕でも手こずるほどのパワーが出ている、ということ。ホーネットSPのスポーツモードよりも過激な演出には、ストリートファイターとしての姿勢が如実に表れている。
スーパースポーツのエンジンを積んだネイキッドモデル、ストリートファイター。正直に言って、「食わず嫌いだったな」と反省している。ホーネットSPもKATANAも、サーキットというスペシャルな舞台でも、十分に楽しめたからだ。
ラップタイムを計測して純粋な速さを競うなら、スーパースポーツには敵わない。セパレートハンドルによるポジションからしてフロントタイヤにしっかりと荷重をかけるようにできているのだ。アップライトなネイキッドでは太刀打ちできない。


だが、サーキットも変わった。’80〜’90年代前半までは、「速いがエライ」だったが、今や「速いがエライじゃない」。その人なりのペースで、その人なりの楽しみ方が許される場に様変わりしている。
バイクに求められる方向性も、単機能追求型ではなくなった。街乗りも、ツーリングも、サーキットもこなせるというマルチロールが人気を呼ぶ時代だ。そして今回テストした2台も、さまざまな顔を持ち、どのステージでもユーザーのニーズに応える。
ストリートファイターという攻撃的なネーミングでありながら、時代にフィットしたバイクたちだ。
【CB1000 HORNET SP】充実装備をおごる高コスパモデル
CBR1000RR FIREBLADEのエンジンをスチールフレームに搭載。STDは前後サスにショーワ製、フロントブレーキキャリパーにニッシン製を採用し134万2000円。
SPはリアサスをオーリンズ製、フロントブレーキキャリパーをブレンボ製としながら、24万2000円高の158万4000円という設定。STD、SPともコスパの高さが光る









【KATANA】“刀”の名にふさわしいキレ味鋭い走り
’19 年にデビューし旋風を巻き起こした新世代KATANAは、伝説的なデザインテイストを守りながらも、GSXR1000譲りの高性能コンポーネントを採用。
鋭い切れ込みが入ったタンクや極端に切り詰められたテールまわりなど個性的なルックスはもちろん、刺激的なライディングも楽しめるストリートファイターとして人気を呼んでいる。








