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熱狂バイククロニクル|ウェイン・レイニー【天才的なステアリング操作】

ライダースクラブ読者の皆さまにも、強烈に印象に残っている、思い出のレースがいくつかおありだと思います。僕の中でも、強く印象に残ったレースは多くて、以前ご紹介した1988年の全日本・筑波での、清水雅広さんvs岡田忠之さんのバトルもそのひとつでした。

そしてさらに、心に残る素晴らしいレースがあります。今回は世界GP、1991年の第6戦ドイツGPでのことを、お話ししたいと思っております。

この’91年シーズンは、’90年のシリーズチャンピオンのウェイン・レイニーさんを初め、ケビン・シュワンツさん、ミック・ドゥーハンさんにエディ・ローソンさん、ワイン・ガードナーさん、そしてジョン・コシンスキーさんと、誰が勝ってもおかしくないライダーが集中する、もの凄いシーズンとなっていました。

このドイツGPのトップ争いは、ミック・ドゥーハンさん、ケビン・シュワンツさん、そしてウェイン・レイニーさんの3人に絞られていました。展開的には、レース中盤まではNSR500を駆るドゥーハンさんが集団を引っ張っていましたが、リアタイヤの剥離が発生し、ドゥーハンさんは後退することとなります。そうなるとレイニーさんvsシュワンツさんとの因縁の対決となるわけです。もう「これから何が起こるのか!」とヤキモキ、ドキドキしたものです。

このホッケンハイムは、インフィールド以外は直線に近い外周路のレイアウトで、パッシングポイントもいくつかに絞られています。ただこの2人のバトルの多くは、レイニーさんが主導権を持っているように見えていましたが、後になってみるとシュワンツさんがタイヤを持たせるためにペースを抑えていた、と見てとれました。

数回のパッシングシーンはあったものの、レイニーさんがトップを守ったままとうとう最終ラップを迎えました。そうなると2位に付けていたシュワンツさんがどこでレイニーさんの前に出るのかに、観ている者は集中していました。

まず動きがあったのは、インフィールドまであとコーナー2つとなるシケインの進入で、シュワンツさんが仕掛けたのでした。しかし、これに対応したレイニーさんは続くインフィールド区間に向かう短いストレートですぐさま抜き返しました! ですが、前に出るタイミングが早過ぎたために、再びシュワンツさんにスリップストリームを使われ、リアにピッタリと付かれた状態となりました。

そして今回の水彩画のシーンとなるのですが、若干アウトから直角コーナーへと進入しようとしたレイニーさん。するとシュワンツさんはそのインへとR GVガンマ500を強引に押し込んでいくのでした! 今ではよく見られるブレーキングドリフトを駆使しており、ガンマのリアタイヤは左右に暴れまくっていました。「暴れるマシンでは、インは刺せても曲がり切れない!」と思われたのですが、シュワンツさんは見事にコースアウトもせず、大きな失速もさせませんでした。

インフィールドに入った直角コーナーのアウト側にまわり、シッカリ加速してみせたレイニーさんの頭を抑え、シュワンツさんもシッカリ加速したのでした。そもそもシュワンツさんのマシンはフロントブレーキの効きが弱いと聞いていたので、どうやって減速し切ったのかが謎ではありますが……。

このコースのインフィールドの各コーナーには深目のカントが付いているため、コーナーへの進入スピードが速く、もうパッシングできるコーナーも無く、レイニーさんは敢えなくシュワンツさんの後塵を排する結果となってしまいました。

先にも述べましたが、シュワンツさんがタイヤの持ちを考慮して、ずっとレイニーさんのテールに張り付いていたのが、その勝因かと思っています。もの凄いレースでした!

そして今回のライディング考察の対象は、この’91年シーズンもチャンピオンになったレイニーさんです。ここまで熱くシュワンツさんを語りながら、レイニーさんの話しとするのもどうかとも思いますが……。

トップライダー達の共通点は何かと言えば、タイヤの限界域で走り続ける事ができる、という事です。ですからタイヤがイコールコンディションになれば、集団でのレースとなってしまいます。結局はマシンの中で路面に触れているのはタイヤだけですから、良いタイヤを使うという前提が勝利への最短の道であるわけです。現在のイコールコンディションのレースでは、その部分での楽しみ、意外性は少なくなっていますね。ただしこれは、どちらが良いとか悪いとかの意味ではございません。

この辺りの状況を理解していたケニー・ロバーツ監督は、敢えて主流のタイヤメーカーとは契約せず、チームケニーが要求するタイヤを作ってもらう事を条件に、非主流メーカーのタイヤを使いました。他のトップライダー達とは敢えて違うタイヤを使い、イコールコンディション下からは離れた優位性、可能性を追求していたわけです。これも立派な闘い方ですね。このシーズン、レイニーさんとシュワンツさんは共にダンロップを使っていました。元々チームケニーはダンロップだったのですね。ちなみにドゥーハンさんはミシュランでした。

そんなレイニーさんのライディングの特徴は、ステアリング操作を積極的に使っていたところです。これは師匠であるケニー・ロバーツさんも同様でした。

5頭身イラストに描きましたが、鈴鹿のシケインやS字コーナー等の連続するコーナーで、それは顕著でした。シケインに絞って考察すれば、1つ目の右コーナーでは寝かし込む直前に一度左に逆ハンを切って鋭くマシンを寝かせて向き替えを行います。右にバンクしたマシンに瞬間的に、さらに右にステアする事(右にハンドルを引く)で、フロントタイヤで一旦抵抗を作り(ブレーキしたのと同様)、その反動を利用し、タイミングを合わせアクセルを入れる事でマシンは一気に立ち上がります。

その直前に、レイニーさんは腰を右から左にオフセットして待つ状態とし、さらにハンドを右に切る(瞬間的に逆ハンを当てる)とマシンは一気に左コーナーに向けて寝ていきます。若干マシンが遅れる形で左にバンクするように見えます。このあたりにレイニーさんのライディングセンスを感じます。凄くカッコ良いです! 身体に無理を掛けずに、右から左にマシンのバンクを一気に替えてしまうのです。疲れないという事は、レース中、精神面でも集中力を最後まで保てるというわけで、やはり世界のトップライダーのステアリングワーク、ステップワークは凄いと思います。

ちなみにステップワークについては、コーナー進入の際に「イン側ステップを踏み込む」と言うライダーと、「イン側ステップを踏み込むとアンダーステアになる」と言うライダーがいて、なかなかこの辺りの判断は分かり難い部分もあります。プロ野球を観ていると、現役を離れた多くの選手達が、こういう場面では選手達は何を考え、何をしているのかを、かなり深い部分まで解説もされているので羨ましくもあります。ロードレースをもっともっと深く知りたいと願っております!

逆ハンが顕著だった鈴鹿のシケイン
レイニーさんのブレーキレバーの握り方
【松屋正蔵】1961年・神奈川生まれ。’80年に『釣りキチ三平』の作者・矢口高雄先生の矢口プロに入社。’89年にチーフアシスタントを務めた後退社、独立。バイク雑誌、ロードレース専門誌、F1専門誌を中心に活動。現在、Twitterの@MATSUYA58102306にてオリジナルイラストなどを受注する

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