高田速人さんのスポーツライディングブートキャンプ|Vol.2 コーナリングに繋げるためのブレーキング
速く走ろうと考えるあまり、コーナーばかりを頑張ってしまうのは誰にもありがちなこと。だが、その前段階のブレーキが出来ていなければ、コーナリングはままならない。今回は、スキルアップに重要なブレーキング術を、高田速人さんが伝授する。
【MFJ公認インストラクター:高田速人】’76年東京都出身。鈴鹿NK4耐優勝を経て国際ライセンス取得。全日本や鈴鹿8耐の参戦多数。2013年から3年間、世界耐久選手権にフル参戦、最高ランキングは3位。バイクのタイヤとメンテナンスのプロショップ「8810R」代表
コーナー進入時のブレーキングではプロはじわっと長く減速
前回(Vol.1 ビッグバイクを上手に操るのはムズかしい!?)、高田速人さんと編集・藤田がサーキットを同条件で走行。そのデータを比較し、走り方の違いを分析した。結論としては「ブレーキングが出来ていないから、コーナリングで上手く曲げられない。コーナリングが出来ていないから、ストレートで開けられない」ということだった。では、どうしたら有効なブレーキングが出来るのか、しっかりとバイクを曲げていけるのか、そしてパワーを使った加速が出来るのか、を学んでいく。
今回は、その1第段階としてのブレーキング。まず、下の図を見て欲しい。これは、筑波サーキット・コース1000の第1コーナーでの、高田さんと藤田の走行データ。バイクはスズキ・ジクサー250。走行前、高田さんは「ローパワーで軽量なバイクはスキルの差が出にくい」と語っており、その言葉通りの結果が出たことは前回紹介した。
その理由のひとつが最高速。最も速度が乗るメインストレートでの到達速度差は1km/hほどしかない。両者とも、そこでブレーキングを開始しているが、高田さんの方が数m奥まで加速を続けている。これを「奥まで突っ込んでいる」と受け取るのは早計。加速区間をより多くとっているのだから、タイム差に影響しているのは事実だが、ここでは誤差の範囲と考えておけばいい。
注目すべきは、ボトムスピードを記録した位置とその速度だ。高田さんはコーナーの奥までブレーキをかけ続けているが、藤田はより手前でブレーキングを終えている。さらにボトムスピードは藤田が低い。つまり、藤田の方が短い距離でより強いブレーキングをしていることになる。
上手なブレーキングというと、いかにブレーキ開始を遅らせて、奥まで突っ込んで強くブレーキをかけるかというイメージがあるが、高田さんは逆のことをしているのだ。
「ここでいうブレーキングは、安全にコーナーをクリアするために減速するというより、コーナリングの準備だと考えてください。理想のラインを通過するためには、どれだけ速度を落とせばいいのか? ボトムスピードはどの地点にもってくればいいのかを考えて走るべきなんです」 と、高田さん。
ブレーキ開始を奥まで我慢してのハードブレーキングでも、速度は落ちるしコーナーのクリアも可能。だが、コーナリングに難しさを感じるはず。特にバンクのきっかけはつかみにくい。
「強過ぎるブレーキングは、荷重でフロントタイヤを不必要に潰します。極端に言えば四輪タイヤのように四角っぽい形になる。これもバンクしにくい原因のひとつです。ブレーキをリリースし、タイヤのプロファイルを戻さないと素直にバンクしませんが、この局面でタイヤの変形が繰り返されると、バイクの安定性が損なわれます」
ハードブレーキングが、コーナリングの邪魔になる場合もあるのだ。「ブレーキングから、スムーズにコーナリングに持ち込むには、車体が安定した状態を保つことが大切。リアのホッピングやスライドが起きると、ロスが生じるし危険です」
では、スムーズで安全なブレーキングのやり方とは?「まず、丁寧な操作を心がけること。いきなりガッとレバーを握るのはダメ。人間もバイクも、何か新しい動きをする時は準備動作が必要。ブレーキも一緒です。ブレーキ操作を表す〝二段掛け〞という言葉があります。はじめにジワっと入力してから、強く力を入れるものですが、それを段差なく意識せずに行えるのが理想。ブレーキレバーは握りこむのでなく、手前に〝引く〞と意識してください」
少しの工夫で
ブレーキングが変わる
ブレーキペダルは踏み込まない、つま先を巻き込むように操作する
リアブレーキペダルを、力任せに真っ直ぐ踏み込むと、余った力が逆方向に作用して、ライダーの身体を前方の斜め上方向に押し出してしまう。背中が反ったように伸び、ニーグリップは外れハンドルの保持もままならない。上半身が伏せた基本姿勢から外れ、安定性を損なうリアブレーキペダルの踏み方にもコツがある。高田流では、ステップバー先端を軸に足を外側に傾け、ペダルを内側に巻き込むように操作する。この踏み方だと、リアブレーキ操作が膝の下だけで完結するので、身体の他の部分と相互に影響しない。その分、コントロールが容易。