中野真矢に学ぶ、スポーツライテク究極の2択【Part2:ブレーキング編】
もっと上手に、もっと楽しく走りたいと願うライダーであれば、ライディングで疑問に感じること、わからないことが多くあるだろう。今回は気になるライテクの2択問題を、Q&A方式で中野真矢さんが解説。第2回目は今回のライテク企画を製作するにあたり、メールマガジンで読者から中野さんに質問を募集。その中で多かったのが、ブレーキングに関する物だった。それだけ難しく、奥が深いテーマだ!
PHOTO/S.MAYUMI, H.ORIHARA TEXT/K.ASAKURA 取材協力/スズキ 0120-402-253 https://www1.suzuki.co.jp/motor
Q1:ブレーキングは、バイクの“向き変え”までに終了 or “向き変え”中も使う?
A:向き変えまでに終わらせよう
ここで言う“コーナリング”は、バイクを“向き変え”させる瞬間のフルバンク領域を指すと考えてください。バイクが深く寝ている時はタイヤの接地面積が小さいので、その領域でのブレーキ操作は危険。使うとしたらリアだけで、減速というより姿勢制御が主な目的になります。コーナー進入から“向き変え”に至るまでの区間は、前後ブレーキを使っています。そうした方が、タイヤのグリップを引き出せます。
Q2:向き変え地点に寄せるきっかけ作りはブレーキリリース or ステップワーク?
A:ステップワークで寄せる
前述の”向き変え”地点にマシンを”寄せる”ために、車体を寝かせていくきっかけ作りはステップワークで行っています。この段階ではブレーキ入力をキープ。ブレーキリリースは”向き変え”のきっかけ作りです。
僕はコーナーに進入する前、ストレートの段階で、一旦曲がる方向と逆に走行ラインを振ることも多いです。アウト側から角度をつけてコーナーに入り、アウト側ステップを踏み、リアサスの反動で上体をイン側に移すと、マシンを曲げやすいです。
Q3:ブレーキレバーを握るのは、2本指 or やりやすい方法でOK?
A:理想は2本指だけど・・・・
レース界では、人差指と中指の2本指でのブレーキ操作が理想と言われています。ハードブレーキングを繰り返すとレバーストロークが大きくなることがあり、スロットルとの間に人差指が残る3本指操作では、奥までレバーを握り込めないことが主な理由です。
ですが、ブレーキレバーの握り方を矯正するのは、かなり困難。実は僕自身は、慣れ親しんだ3本指操作派です。
Q4:シフトダウン時のブリッピングは、必要 or 不要?
A:1速に落とす際だけ必要
オートブリッパーとスリッパークラッチを装備した現代のバイクであれば不要です。シフトダウン時のブリッピングを省略することで、ブレーキングとコーナリングに集中できますから。もちろん、その装備がないバイクであれば必要です。ただ僕は、オートブリッパー付きのバイクでも、ギアレシオの離れた2速→1速のシフトダウンでは、自分でブリッピングします。
Q5:GPライダーの足出しブレーキング一般ライダーにも有効 or 効果なし?
A:条件付きで有効
車体の後方への荷重を増やしたい時に使うテクニックですから、下り坂のコーナー進入時のブレーキングなどでは効果があります。ですが、理由を理解せずに足を出すのはカッコ悪いだけですし、なにより危ないと思います。時折、足を出している人を見かけますが、意味をなす速度域に達していません。サーキットで、プロが限界の走りをする時にこそ意味のあるテクニックです。一般公道でチャレンジしたい? 言語道断ですね。恥ずかしい行為だと思います。
Q6:ブレーキング時に姿勢を保つには、ニーグリップで十分 or 腕も突っ張る?
A:しっかり突っ張る!
ステアリングは絶対にフリーの状態を保たないとダメだと思い込んでいる人がいますが、それは違います。ブレーキングではしっかりと腕を突っ張り身体を支えます。そう聞くと、ギュッと力を入れてハンドルを握る人がいるのですが、それは勘違い。力を使うのではなく、肘の関節をロックして腕を“つっぱり棒”のように使って身体を支えるイメージです。その状態から腕の突っ張りを解くと、バイクの“向き変え”のきっかけ作りにもなり、効果的です。
Q7:ABSに頼らない or 積極利用?
A:頼らない
安全装備として重要なABSですが、積極利用するものではありません! あくまで、非常事態でのサポート機能ですから、一般公道で日常的にABSが介入するような走り方をしているなら、即座に改めましょう。また、機械ですから故障の可能性もあります。ABSを過信せず、自身の操作で安全に止まれる技術を身につけましょう。とはいえ技術の進歩が著しい分野、コーナリングABSも高性能化しています。ブレーキをバイクに任せる未来が来るかも……。
Q8:ブレーキをかけるのはガツンと強くor そっと長く?
A:イメージは“そっと、短く”
質問に対する答えとして適当かどうか、自分でも疑問なのですが(笑)、理想的なブレーキ操作のイメージは“そっと、短く”です。ブレーキは短く済ませたい、だからといって勢い良くガツンとかけるのは挙動を乱すので良くない。
「ブレーキを軽くかける→フロントフォークが縮む→タイヤが潰れてグリップ力が上がる→本格的にブレーキに入力して制動力を発生させる」この一連の流れを、なるべく短い間にこなすことが理想。ですから“そっと、短く”なんです。
Q8:減速時、エンジンブレーキは積極的に使う or ブレーキ操作主体?
A:積極利用!
僕は2ストロークマシンで育ったので、MotoGPで初めて、4ストロークのエンジンブレーキの凄さに驚きました。初期のYZR-M1はエンジンブレーキが強すぎて、エンジンが止まってしまうことすらありましたから。
GPライダーは、皆エンジンブレーキに慣れるのに苦労していました。ですが、せっかくあるものですから、ポジティブに活かした方がいいですよね。適正なギアを選べば、減速やグリップ力を発生させるため、エンジンブレーキは有効です。
Q9:リアブレーキはあまり使わない or 積極的に活用?
A:使える方が有利!
減速の主役は、あくまでフロントブレーキ。フロントの使い方をマスターした上でリアブレーキを補助的に使えるようになると、コーナリング中や加速時のマシンコントロールで大きな武器になります。積極的に使いましょう。そう言いつつ、僕はリアブレーキの使い方があまり得意ではありません(笑)。体格の問題もありますが、右コーナーではリアブレーキを踏めませんし……。同世代ではマルコ・メランドリが、リアブレーキの使い方が上手でしたね。
Q10:シフトダウンはブレーキングの前 or 後?
A:同時!
フロントブレーキを“そっと、短く”かけ始め、同時にシフトダウンします。ギアを落とせば、エンジンブレーキも効きやすくなります。リアブレーキを上手に使える人は、併せて踏んでいますね。僕は、苦手ですけど(笑)。
シフトダウンで難しいのは、ブレーキレバーに入力しながらブリッピングすることでしょう。これはもう、練習して身につけるしかありません。オートブリッパー搭載のバイクなら、機械任せでOK。電子制御の進化に感謝ですね。
Q11:コーナー進入時のシフトダウンは早さ優先で一気に or ギア比と回転数に合わせて徐々に?
A:回転数に合わせよう
使用ギアとエンジン回転数を合わせながら、徐々にシフトダウンしていくのが鉄則です。パワーバンドを外さないように、ギアと回転数をバランスさせます。トップライダーは、もの凄い勢いでシフトダウンしているように見えるかもしれませんが、ちゃんとギアと回転数の関係性を見ています。
僕は、ストレートエンドまでにシフトダウンが終わらなくて、バイクがバンクし始めた状態でもギアを落とすことも。重視しているのはパワーバンドの維持です。
Q12:シフトダウンのショックを逃がすにはブリッピング or クラッチワーク?
A:現代のマシンなら、バイクまかせ
現代のオートブリッパー搭載マシンであれば、シフトダウン時のクラッチ操作は不要と割り切っていいと思います。従来のマニュアルクラッチであれば、ブリッピングも大切ですが、より重要なのはクラッチワークです。特に、クラッチリリースのタイミングと力の抜き方で、シフトのショックは大きく違ってきます。
僕は古いタイプの人間ですから、オートブリッパーがあっても、クラッチ操作をすることがあります。自分でコントロールしたい気持ちが強いんです。