ライディングはこう変わった!【昔の常識と今の流行】|スポーツライテクの趨勢
運動中は水を飲むな、足腰強化にはうさぎ跳び、ピッチャーは絶対に肩を冷やすな……。スポーツの世界では、昔は常識とされたことが現在の非常識になっている例は多い。バイクライディングでも、これは同じ。かつて言われていたことが変わったり、バイクの進化によって、現代では合わなくなったかつての常識も多々あるのだ。最新トレンドや、バイクに合った乗り方を知り、自分をバージョンアップしよう!
PHOTO/S.MAYUMI, HONDA, DUCATI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/ビー・エム・ダブリュー 70120-269-437 https://www.bmw-motorrad.jp/
機械の進化と人間の努力が新しいトレンドを生む
レースの世界では、走りのトレンドやセオリーが常に変化してきました。ここには、電子制御やタイヤを含むマシンの変革や進化と、速さを追求し続けるライダーたちの努力が、大きく関係しています。
ロードレース世界選手権におけるマシンの変化で、近年のとくに大きな出来事は4ストローク化。最高峰クラスは2ストローク500㏄から’02年に4ストローク990㏄のMotoGPクラスとなり、これで多くのことが変わりました。
ライダーが生み出したトレンドとしては、MotoGP以降ならバレンティーノ・ロッシ選手が最初に取り入れた、コーナー進入でイン側の足を出すフォームや、マルク・マルケス選手の登場以降に普及したヒジ擦りが顕著でしょう。
MotoGPだけでなく、市販車、とくにスーパースポーツ系は大きく進化し続けており、それによりセオリーとされるライテクもかつてとはすでにだいぶ変わってきています。 そのあたりの話を、じっくり解説していきましょう。(中野真矢)
ライディングはこう変わった! 昔の常識と、今の流行
ライテクの基本的な部分は、今も昔も変わらないモノが多いが、マシンの進化などに起因して、乗り方を変えた方が良いこともある。中野真矢さんに、今と昔の違いや現代のセオリーを教えてもらった。
市販車でも、マシンのバランスや前後サスペンションの性能、電子制御技術、そしてタイヤのグリップなどが、近年は大きく向上しており、レースと同じく頭を車体の中心に残さず、イン側にズラすフォームが主流となってきました。
現代的なコーナリングフォームを目指すなら、アゴをイン側の手の甲に近づけるイメージで、上半身を全体的に下げてハングオフしましょう。これにより上半身を低く構えることができ、ライダーがマシンに近づくことでマスが集中して重心位置も下がるので、コーナリング時の安定感が高まるというメリットもあります。
この姿勢をキープするためには、外足の内ヒザや内腿あたりで燃料タンクをしっかりホールドすることが大切。腕でハンドルにぶら下がると、ハンドリングに悪影響を与えるので避けましょう。
【昔】コーナーでは頭をセンターに残す
【シチュエーションによっては今でもメリットはある】頭をセンターに残すコーナリングフォームには、マシンのスライドや予期しない挙動に対処しやすいというメリットがあります。私の場合、ウエット路面やタイヤが冷えている状態などの滑りやすいシチュエーションでは、意識的に頭がセンター寄りのフォームにすることもあります
【今】上半身ごと大きく横にズラす
【バイクと路面の間に潜り込むようなイメージ】身体を大きくイン側にズラすとはいえ、地面に対して真横に移動するわけではなく、バンクしているバイクと路面の間に、潜り込むようなイメージです。昔はよく「肩から入る」とも言われていたようですが、表現の分かりやすさはともかく、実際の姿勢はそれに近い部分も多少はあるかと思います
【昔】ブレーキングは下半身ホールドで身体を支える
【今】腕を突っ張ってハンドルを押し前輪を潰す
減速の際、下半身で身体を支えることそのものは正しいのですが、そう意識するあまり、腕の力を完全に抜かなければいけないと勘違いしている人は多いです。しかしそれだと、少なくともハードブレーキングでは上半身にかかる減速Gを支えられません。
また近年のスポーツバイクは大半が“潰して走る”ラジアルタイヤを履くので、ブレーキングで前輪に荷重をかけることでタイヤが潰れて接地面が増え、減速に使えるグリップを最大限に引き出すことができます。そこで減速時は、ヒジをやや伸ばしつつ関節をロックし、腕を突っ張り棒のように使って前輪にも荷重するのがセオリーです。
【昔】ハンドルに入力は御法度! セルフステアで曲がる
【今】最大バンクまではハンドルが切れないよう微調整
「腕の力を抜いて、セルフステアで曲がる」とよく言われましたが、ずっとセルフステアだと前輪が切れ込んだりします。だからライダーは微妙なハンドル入力で、無意識にバランスを確保しているのが実際のところ。これはアマチュアも同様です。腕に力を入れすぎるのはダメですが、主に左手でグリップを押し引きするイメージで、絶妙に補舵するのが現代の主流。そしてクリッピングで力を抜き、上半身を下げて一瞬だけセルフステアで深くバンクさせるのです。
【昔】コンパクトになるためにハンドルは絞る
【今】積極的に入力できるように幅広になっている
2ストローク車は軽量コンパクトだったこともあり、少ないハンドル入力で操縦できました。しかし現代は、大柄で重たい4ストロークになったこと、マシンとタイヤの進化でフロントタイヤを積極的に使えるようになったこと、そしてさらに高速化したことなどで、ハンドルに入力(あるいは切れないように保持)する力が必要になってきました。そのため、テコの原理によって少ない入力でハンドルを保持できる、幅広な設計の車種が増えているようです。
【昔】’80年代のレーサーのような“前乗り”が速さの秘訣
【今】タンクから拳ひとつ分後ろに座って運動性を高める
かつては極端な“前乗り”で速い選手もいました。そのため“前乗りが速い”という誤解が生まれたのかも知れません。下の写真を見比べれば分かるように、現代はシート高も重心も高め。そのため、シート上で大きく動いて乗るための設計になっています。シート上で素早く動くためには、タンク後端と股間の間に最低でも拳1個分程度のスペースを開けて座るのが基本。これにより、ストレートでのニーグリップやコーナーでの外足ホールドもしやすくなります。
【昔】コーナリングは「内足荷重VS外足荷重」で大激論
【今】必要に応じてどちらかに荷重してバランスをとる
例えば、僕が日本と世界でロードレースを戦っていた’90年代にも、ファンライド層の間では「外足荷重だ」とか「いや、内足荷重だ」なんて議論があったようですが、レースの現場でそんなことが話題になったことは皆無。僕自身も、意識したことはありません。
これまでのさまざまな経験から言えることは、「旋回中はステップを左右とも踏み、その量を巧みに調整し続けている」ということ。バイクの上でヤジロベエのようにバランスを取っています。
【昔】ブリッピングでスムーズにシフトダウンするのが上級者
【今】オートシフター任せでライディングに集中できる!
かつての4ストローク車は、変速ショックを和らげるために、右手でブレーキレバーを握りながらスロットルをあおり、回転を合わせてシフトダウンする技(ブリッピング)が必要でした。しかし近年は市販車でもアップ&ダウン対応のオートシフター(クイックシフター)が搭載されている車種が増えました。これを活用することで、ブレーキレバーを握る力が抜けづらくなり、左手のレバー操作がなくなるので、他の操作により集中できるようになっています。
【昔】鋭くバンクさせるためにステアリングを逆操舵
【今】ライン取りとステップワークでリーンのきっかけをつくる
逆操舵は、バンクする方向とは反対側にハンドルを切ることで車体を素早く寝かせる技ですが、ファンライド層が活用するのは難しいです。そこで、ストレートからコーナーに進入する際は、少しアウトにラインを振ってからリーンさせるのがオススメ。
以前は大排気量車特有のライン取りでしたが、最近はMoto3でもこのラインになってきました。操作のコツはステップワークで、ブレーキングで外側ステップに荷重して車体をアウトに振り、その踏んだ反力を利用して、素早く身体をイン側に移動するイメージです。
【昔】高いコーナリングスピードを維持して曲がる
【今】ボトムスピードを落として加速重視のV字ラインに!
レースでは、4ストローク化により立ち上がり重視のラインが主流となりました。ファンライドにおいても、現在は多くのサーキット走行会参加者がミドルクラス以上のスポーツバイクに乗っています。そういう方が安全に楽しむためにも、立ち上がりでトルクを有効に使うライン取りがセオリーとなりました。
そのためには、コーナー中間でボトムスピードをしっかり落とし、コンパクトに曲がることが重要です。
【昔】リアブレーキはどうせ効かないから使わない
【今】旋回中や立ち上がりでも姿勢調整などに使うことも
リアブレーキが効かないという点はその通りですが、だから使わないというのは間違い。例えばプロレーサーは、減速のためではなく、車体の姿勢制御や旋回中の微妙な速度調整やトラクションコントロールなどのために使います。MotoGPでは操作性を高めるため、左手でリアブレーキレバーを操作する選手が多くいます。仮にリアブレーキが不要なら、そんなことにはなりません。フロントがしっかり使えることが大前提ですが、リアも上手に活用できるようになると、走りの幅が広がります。