【おいしい回転数で走る駆動力コントロール⑦:まとめ】速くではなく、思い通りに走るため、おいしい回転数を使ってほしい
高回転域の使用に慣れ基本的な技術も磨きつつ
エンジンは気筒数などの形式や排気量、減速比によって特性が異なるし、コースレイアウトや路面状況、あるいは各ライダーの走り方や好みなどによっても、理想と思われる回転数には多少の違いが生まれます。
とはいえ、ざっくりとした傾向として、サーキット初中級者は多くのシーンでエキスパートライダーよりも高めのギアを選択し、その結果として「使っているエンジン回転数が低い」ように感じられます。
初中級者の場合、まず減速時に積極的にシフトダウンして強いエンジンブレーキを引き出すことに、怖さを感じるかもしれません。でも我々からしたら、エンジンブレーキをほとんど効かせず減速することのほうが、逆に恐怖。車体の動きが不安定になり、むしろうまく走れません。
これは、旋回のプロセスに入ってからも同じ。例えばギア選択を間違えて、本来は2速のところを3速で進入するだけでも、期待していたエンジンブレーキの効果を得られないことで、不安を感じます。
そして、コーナーの立ち上がりでスロットルを開けていくときも同様。エンジン回転数が低いほうがスロットル操作に対する反応はダルな傾向なので、初中級者はこの領域を使いたがりますが、プロライダーからしたら自分の操作に対してリニアな感触がないほうがむしろ恐怖です。
もちろんどのシーンにおいても、回転数が高ければいいというわけではありません。減速時にギアを落としすぎればギクシャクする要因にもなるし、立ち上がりでギアが高すぎれば操縦がシビアになります。だから我々も、初めて乗るバイクやコースでいきなりギアをバンバン落として乗るなんてことはなく、様子を見ながら少しずつ高い回転を試します。
その間にペースが上がり、自分とエンジンが徐々にシンクロして、自在にコントロールできてギクシャクしない回転数(ギア)が決まってくる……というようなイメージです。
しかしほとんどのサーキット初中級者ライダーは、これよりもだいぶ手前の段階で、壁にぶつかっているような印象。そしてそれは、高回転域がもたらす音や振動などに起因しているのではないかと推測します。
そこで、この状況を打破しておいしい回転数を使うための第一歩として、エンジンの高回転域に慣れるため、直線区間でこれまで以上に引っ張ることを提案します。例えば、これまで5速に入っていたストレートが4速になってしまっても大丈夫。
スロットルを全開にできなくてもいいので、まずはエンジンの高回転を使用している状態に慣れることで、低すぎるエンジン回転数がもたらす不安定な状態から抜け出すきっかけを掴んでみてください。
今回の特集内でも少し触れましたが、レースの世界では「おいしい回転数を使う」は重要なテーマで、そのために特定のギア段数だけ減速比をセッティングすることもあるほど。
もちろん、レースでそれをする理由は「速さの追求」なのですが、おいしい回転数の使用が速さにつながるのは、「立ち上がりでトラクションをかけられるようになる」からで、これは速さではなく楽しさが最優先されるファンライドでも効いてきます。
おいしい回転数を意識しながら走ることで、無理せずスキルアップできると思います。 ただしこのときに大切なのは、正しいライディングフォームやライン取りなどの基本的な技術。
例えば、おいしい回転数を使うとリニアな反応が得られる代わりに、低い回転数で走っていたときと比べたら繊細な操作が求められます。ライン取りが毎周バラバラでは、おいしい回転数を使えていてもライディングは安定しません。
ライディング技術を総合的に高めることも意識しながら、おいしい回転数を使いこなして、愛車のエンジンが持つポテンシャルを存分に引き出す爽快な走りを楽しんでください!
(中野真矢)