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【バランスを崩してリーンする。きっかけはプッシングステア:01】二輪工学に基づいたバイクを曲げるメカニズム

ジャイロモーメントがバイクの旋回

まずはエンジニアの立場から、バイクが曲がる原理を解説しましょう。

実は私も長い間、バイクは体重移動により傾いて曲がると信じていました。しかしこれだと、理論的に説明できないことばかり。

そもそも、ストレートエンドのブレーキングで体重移動してみても、それだけでイン側に旋回することもありません。

そこでたどり着いたのがプッシングステア(=非セルフステア)でした。

二輪運動力学を考える上で重要な用語に、「重心三角形」があります。これは、前輪の接地点、後輪の接地点、ライダーの体重も含めた車両全体の重心位置という3点を結んだ三角形のこと。

そして、重心から鉛直方向(地面に向かって垂直に)に引いた線が、前輪と後輪をつないだ線と交わるとき、バランスが保たれてバイクは自立します。

【イン側のグリップを押してバランスを一瞬崩す】直進しているバイクの右側のグリップを少し押すと、ステアリングは微少に左へ転舵。バイクは前進しているため、前輪接地点は左側に移動する。この時点で車両+ライダーの重心は、慣性力により車体を上から見たときの中心線付近に残るため、結果的に前輪と後輪の接地点を結んだ線よりも右側にズレたことになる
【イン側のグリップを押してバランスを一瞬崩す】直進しているバイクの右側のグリップを少し押すと、ステアリングは微少に左へ転舵。バイクは前進しているため、前輪接地点は左側に移動する。この時点で車両+ライダーの重心は、慣性力により車体を上から見たときの中心線付近に残るため、結果的に前輪と後輪の接地点を結んだ線よりも右側にズレたことになる
【直進中はバイク自身が必死にバランスを取っている】直進中のバイクが自立するのは、前輪と後輪の接地点を結んだ線と、車体とライダーを合わせた重心から鉛直方向に引いた線が、1点で交わる状態だから。ただし実際は、車体が微妙に左右へ傾くことでズレが生じ、このときに前輪のジャイロモーメントにより微少(高速域では0.1度以下)な転舵を繰り返してバランスを保っている
【直進中はバイク自身が必死にバランスを取っている】直進中のバイクが自立するのは、前輪と後輪の接地点を結んだ線と、車体とライダーを合わせた重心から鉛直方向に引いた線が、1点で交わる状態だから。ただし実際は、車体が微妙に左右へ傾くことでズレが生じ、このときに前輪のジャイロモーメントにより微少(高速域では0.1度以下)な転舵を繰り返してバランスを保っている

直進するバイクの前輪には、回転によりジャイロモーメント(回転するコマを安定させる力と同じ)が発生。

重心からの鉛直線が前後輪を結んだ線から左右にズレたとき、この力がステアリングをごく微少に転舵し、車体を安定させます。

【重心位置がズレることでイン側へのモーメントが発生】重心から鉛直方向に引いた線(赤い矢印)が、前輪と後輪の接地点を結んだ線からズレる(オレンジの線)と、車体にはそのズレを自然と修正しようとする力が働く。この時、ズレた方とは反対側(ライダーが曲がりたい方向)に車体は傾こうとしている。この力を利用すれば、鋭く車体をバンクすることができる
【重心位置がズレることでイン側へのモーメントが発生】重心から鉛直方向に引いた線(赤い矢印)が、前輪と後輪の接地点を結んだ線からズレる(オレンジの線)と、車体にはそのズレを自然と修正しようとする力が働く。この時、ズレた方とは反対側(ライダーが曲がりたい方向)に車体は傾こうとしている。この力を利用すれば、鋭く車体をバンクすることができる

そしてジャイロモーメントは、回転が速いほうが強いので、高速になるほどバイクは安定。この状態を崩して旋回させるためには、〝ジャイロモーメントに打ち勝つ入力〞が必要なのです。

(辻井栄一郎)

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