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【中須賀克行×岡本裕生 スペシャル対談】王者が送る王者への言葉

全日本ロード最高峰クラスで、名実ともに“絶対王者”として君臨していた中須賀克行。その中須賀の背中を追い続けて3年目の岡本裕生が、ついに王座を奪取した。「素直にうれしいよ」と中須賀。「改めて中須賀さんはすごいと思う」と岡本。ふたりの王者の間で交わされる言葉は、どこまでも深く、重かった。

PHOTO/S.MAYUMI, YAMAHA TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/ヤマハ発動機 0120-090-819 https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

中須賀 裕生、JSB1000クラスのチャンピオン獲得、本当におめでとう!

岡本 ありがとうございます。でも、自分ではまだあまり実感がないんですよ……。中須賀さん含め、こうしてまわりの皆さんが「おめでとう」と言ってくれるのはうれしいんですけど、自分自身、何か変わったような気もしていないし……。

中須賀 その感覚は分かるなあ。オレが初めてJSB1000のタイトルを取ったのは’08年だったけど、ものすごくうれしいって感じではなかった。「ホッとした」っていうのが1番近いかもしれない。

岡本 ああ、まったく同じです。ファクトリーという、勝つのが当たり前というチームに置いていただいているので……。中須賀さんが言っている通り、喜びはあまりなくて、安心したっていう方が大きいかな。

中須賀 オレが最初にタイトルを取った時はまだヤマハはファクトリー体制じゃなかったから、プレッシャーという点では少しマシだったかもしれないけどなぁ……。ファクトリーになった’15年からは、やっぱりチャンピオンになるのが当たり前だと思ってたから、取っても喜んでいられなかった。自分がやるべき任務をしっかり果たせた、という安堵の方が大きいよね。12回チャンピオンを取ってるけど、そのどれもが、安堵しかない。これはチャンピオンになったライダーじゃないと分からない感覚かもね。

岡本 僕がヤマハファクトリーチーム入りしたのは’22年でしたけど、チームメイトが絶対王者の中須賀さんですからね……(笑)。正直、戦いを挑めるレベルではありませんでした。自分が得意とするスポーツランドSUGOなどでは、1発のタイムは中須賀さんと同じぐらいのところまで持っていける。でもアベレージタイムがまったく違ってたんです。だから、「どうやって挑もう」なんて考えることはできなかった。「中須賀さんはどうやって走ってるんだろう」と研究するのが精一杯でした。
やっぱり中須賀さんはブレーキングがすごい。すごく簡単に言ってしまうと、本当に短時間でマシンを止められるんです。そのすごさは研究すればするほどよく分かったし、真似しようともしました。でも結局、今もできていないんですよね(笑)。
自分はもともとスピードを殺しすぎずにコーナーに入って行くタイプ。そういう自分の走りが合うコーナーもあるんです。だから中須賀さんの走りと自分の走り、両方がうまく使えるのが1番いいのかな、とは考えていました。

中須賀 その通りだと思う。JSB1000は’23年からカーボンニュートラル燃料が使われるようになって、若干パワーが落ちたんだよね。だからコーナリングスピードを高める走りじゃないと、タイムが出せなくなった。そこにちょうどコーナリング重視の裕生がピッタリと当てはまって、どんどん伸びたので、オレはオレで真似しなくちゃって(笑)。そうやってふたりがギブアンドテイクというか、切磋琢磨し合えたのがすごく大きかったかな、と思う。
オレは長く1台体制でレースをしてきたけど、やっぱり同じマシンに違うライダーが乗って、お互いの長所を採り入れながら伸ばし合うことができたのは、チームとしてのレベルをグンと引き上げたよね。

お互いをリスペクトしながら、中須賀は岡本のライディングスタイルを採り入れ、岡本は中須賀の背中から多くのものを受け取った。メーカー直系のファクトリーチームの強さは、こうして受け継がれた
お互いをリスペクトしながら、中須賀は岡本のライディングスタイルを採り入れ、岡本は中須賀の背中から多くのものを受け取った。メーカー直系のファクトリーチームの強さは、こうして受け継がれた

岡本 中須賀さんはデータも全部オープンにして見せてくれたので、すごくありがたかったです。

中須賀 そのせいで裕生にチャンピオンを奪われたけどね(笑)。冗談はさておき、同じレースを戦いながらお互いをリスペクトして、お互いの勝利を心から「おめでとう」と言えるチームメイトがいるっていうのは、やっぱりチームとして大きな財産だったと思うよ。

岡本 走りはもちろんですが、僕は中須賀さんとの3シーズンでいろんなことを学ばせてもらいました。中須賀さんは「ああしろ、こうしろ」とは言わない。でも近くで見ていれば分かることがたくさんあるんです。トレーニングもファンサービスも、何ならオーラもすごい(笑)。ライダーって、暇な時にプラプラと他のチームのピットに遊びに行ったりすることもあるけど、中須賀さんのそういう姿は見たことがありません。プロ意識がハンパない。
中須賀 ただエラそうにしてるだけだよ(笑)。

岡本 いやいや(笑)。だって、見てたら分かりますよ。正直、何もかもすごいんですが、特に信じられないのは年齢を重ねていってもずっとフィジカル面を維持し続けてること。特に今年の中須賀さんはケガもあったのに、高いレベルをちゃんとキープされてました。自分が今の中須賀さんと同じ年齢になった時、「そこまでできるかな」って想像した時に、やっぱりとんでもない人だな、と(笑)。

勝つのが当たり前のチーム喜びより安堵の方が大きい
【岡本】

中須賀 年齢だけはどうにもできんのよ(笑)。どうしてもいろんなパフォーマンスは落ちてくる。そういう現実は受け入れるしかないんだよ。もちろん、できるだけのことはやるよ? 今まで自分が蓄積してきたリカバリーするための引き出しを駆使しながらさ。若い時よりも良くすることは不可能だから、どうやって落ち幅を少なくするかって感じかな。
でもさ、こうして裕生みたいな若いライダーはどんどん伸びてくるし、他メーカーのライバルたちも高いレベルで迫ってくるからね。だからこそ、自分もまだまだ進化しなくちゃいけないなって思う。

岡本 まだ進化するんですか!?

中須賀 するする(笑)。だって、さっきの走らせ方の話もそうだけど、裕生のライディングスタイルを採り入れて、タイムはまだ伸びてるからね。そう考えたら、自分には伸びしろと可能性しかないよ(笑)。 と言うより、そう思えるからこそ、続けられてるんだ。いつでも究極を目指していて、常に向上心を持ち続けられてる。自分の中にそれがある限りは、レースを続けたいね。

岡本 中須賀さん、今のモチベーションはどこにあるんですか?

中須賀 いろいろあるよ(笑)。自分はプロライダーだからね、ちゃんとお金を稼がないといけないっていう気持ちはもちろんあるし……。 でも、1番のモチベーションは、今年同じマシンで裕生が出したコースレコードを破ることかな(笑)。

岡本 本当にすごいですよね。尊敬しかないです……。

中須賀 チャンピオンにそう言ってもらえるのは、素直にうれしいね。自分がやってきたことは間違えてなかったのかなって思えるからね。 確かにオレは裕生にあれこれ言わなかった。でも、裕生はちゃんと見てたんだよね。そして、自分に合うやり方を採り入れてくれたんだろう。

裕生がチャンピオンになったことで自分にも誇りが持てた【中須賀】

岡本 そうです、そうです。’22年にヤマハファクトリー入りして中須賀さんを間近に見られる立場になって、それまでの自分がいかに甘かったかがよく分かりました。

中須賀 今年は裕生を近くで見ていて、「あ、追い込んでるな」って、すごく伝わってきたよ。 特に5月末のスポーツランドSUGOの後、3カ月ぐらいのサマーブレイクがあったけど、その間でかなり重点的にトレーニングをしたんじゃないかな。 サマーブレイク明け、モビリティリゾートもてぎのレースで、体つきがまるっきり変わってたからね。すぐに分かった。

岡本 そうなんですよ。今年の序盤戦は中須賀さんにどうしても勝てないレースが続いて、「3年目にしてこれはさすがにヤバイぞ」と。 自分なりに勝つために日々取り組んでいたつもりだったんですけど、「これでもまったく足りていないのか……」と、中須賀さんとの間にある大きな差を痛感したんです。 それで、真夏のめちゃくちゃ暑い時期に自転車で高い心拍数を何時間もキープするようなハードなトレーニングをして、自分を追い込む量をグッと増やしました。 その成果もあったのか、オートポリスは2レースとも勝つことができて、さらにその次の岡山でも勝てた。この3連勝はチャンピオンシップの上ですごく大きかったし、「やればやっただけのことはあるんだ」という自信にもなりましたね。

全日本王者に恥じない走りで世界に挑み、世界を獲る【岡本】

中須賀 いやぁ、うれしいな。もちろんオレ自身もチャンピオンになりたくてレースをしてるから、裕生に負けたのは悔しい。でもオレを手本にして裕生が成長してチャンピオンになったんだから、やっぱりうれしいんだよね。

JSB1000のヤマハファクトリーチームは’15年に始まったけど、最初はオレひとりの1台体制だった。 そして’17年に初めてチームメイトとして(野左根)航汰を迎えたんだ。その航汰も、’20年にチャンピオンになったんだよね。これで裕生も含め、チームメイトは必ずチャンピオンになってるんだ。

航汰はその後、スーパーバイク世界選手権やモト2に参戦した。そして裕生は来年、スーパースポーツ世界選手権(WSS)にチャレンジする。そうやって若いライダーが全日本でチャンピオンを取って世界に羽ばたくのは、オレにとってもすごく素晴らしいことなんだよ。

オレが初めてJSB1000チャンピオンになったのは、27歳。世界に打って出たかったけど、いろんな状況からそれが叶わなかった。 でも、「それなら全日本でやれるだけのことをやろう」と気持ちを切り替えたんだ。そして5連覇を含めて12回タイトルを取ったし、航汰や裕生のような若いライダーたちの手本のような存在にもなれた。「与えられた場で全力を尽くす、という自分のやり方も、間違えていなかったな」って、自分の価値を見出せるし、誇りにも思えるんだ。

……だからさ、来年からのWSSも頑張ってよ(笑)。

倒したいライバルがいる超えたい自分がいるだからレースはやめられない【中須賀】

岡本 先日、YZF-R9で初めてテスト走行したんですが、想像以上のマシンの感触がよかったんです。今年まではブリヂストンタイヤでしたが、来年のWSSはピレリタイヤ。パッと乗った印象では、タイヤの変更も苦労せずに済みそうです。でも、来年は8〜10カ所ぐらいのサーキットでぶっつけ本番になると思うんですよね。経験豊富なヨーロッパのライダーたちの中で自分がポンとレースに出て、いきなりいい成果を残せるかっていうと……(苦笑)。モチベーションは非常に高いんですけど、実際の成績はかなり厳しいことになるのかな、とも思ってます。

中須賀 そんな弱気な……(笑)。

岡本 冷静に考えてちゃダメですかね(笑)。でも、もちろん日本の二輪レースの最高峰クラスのチャンピオンとして参戦するわけですから、その名に恥じないように頑張らなくちゃ、と思ってます。

中須賀 それはあまり気にしなくてもいいよ! 裕生は裕生でしっかりとやり切ったからこそ、全日本のタイトルを取れたんだ。裕生のやり方は絶対に正しかったんだし、その結果として、すでにすごく高いレベルにいる。だから自信を強く持って、世界に挑んでほしいな。

岡本 そこですよね……。でも、1年目から大きなことは言うのもどうかと思いますが、もちろん最初から狙って行くつもりではいます。

中須賀 その意気、その意気。向こうでは何かと心細いだろうから、連絡してくれたらいつでも相談に乗るよ。

岡本 めちゃくちゃありがたいです。最強の相談相手ですから(笑)。

中須賀 もちろんいい報告も待ってるからさ(笑)。

ライパGP2024にチームメイトとして参戦。18歳の年齢差を感じないワチャワチャぶりで、YZF-R125でのレースを楽しんでいた

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