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青木宣篤流 アドバンスドライテク【MotoGPライダーになってみた!PART 3|コーナリングでヒジを擦る】

MotoGP2022シーズン。マレーシア公式テストでは1秒以内に18人が名を連ねた。彼らはいったい、どんな世界にいるのか。そしてどのようにマシンを操っているのか──。究極のサーキット走行を青木宣篤が詳報する。本稿ではヒジ擦りについて解説する

青木宣篤
「なってみた」どころか、言わずと知れたリアル元MotoGPライダー。現在も折に触れてスズキのMotoGPマシン、GSX-RRをテストで走らせている

遠心力に打ち勝つためにマシンをもっと寝かせたい

実は私が現役で2ストロークのGP500マシンを走らせていた頃にも、ヒジは擦っていた。だからレーシングライダーにとって、ヒジ擦りそのものはテクニックというほどのことではない。だが、かつてのヒジ擦りは今のMotoGPほど頻繁ではなかったし、擦る時間も長くはなかった。 

MotoGPを含めた世界選手権レベルでは、コーナリングスピードが高まっているのだ。ストレートも速いがコーナーも速く、遠心力が強く働く。遠心力はマシンを起こそうとするので、ライダーはこれに抗うためにイン側に大きく体を落とし、マシンを引き倒すようにする。そしてヒジを擦る、というわけだ。 

起きようとするマシンを寝かせるわけだから、当然、バンク角は深くなる。つまり、タイヤが滑ることさえ厭わない、滑ってもコントロールできるからこそ可能な、極めて高い次元の走り、ということになる。 

前輪に荷重をかけたいからライダーが前に乗り、ヒジを張るようなライディングフォームになるからヒジを擦る、という説もある。一理ありそうだが、私はやや懐疑的だ。 

前回解説したように、ミシュランのMotoGPタイヤは前輪に頼り切れない面がある。「それなら、なおさらライダーの体重をかけた方がいいじゃないか」と思うところだが、そうはならないところが面白い。 

私自身も経験しているのだが、前輪が弱く後輪が強い特性のタイヤなら、前輪に荷重をかけようとするのではなく、後輪にさらに荷重をかけた方がうまくいく。 不得意をつぶそうとするより、得意を伸ばす方がいい、ということ。もしかすると、タイヤも人間も同じなのかもしれない。

“グリップの向こう側”に行ってしまいやすい

今やごく一般的なスポーツライディングテクニックであるヒザ擦りも、グランプリから始まった。アイスレースからロードレースに転向したフィンランド人のヤーノ・サーリネンがハングオフを始め、それを応用したケニー・ロバーツがヒザ擦りを完成させたと言われている。

ヒジ擦りも同じように、いつか一般的なテクニックになる日が来るのだろうか? 私はそうは思わない。

ヒジ擦りは、コーナリングスピードが高いことが基本だ。それによる強い遠心力に打ち勝ち、バイクを寝かせるためのテクニックである。

バイクを寝かせるということは、タイヤの限界に近付くということ。それだけリスクは高い。

そのことを十分に理解したうえでトライする分には、価値があるかもしれない。ハイグリップタイヤでのレースや、私のような撮影用のライディングがそれにあたるだろう。

だが、スポーツ走行レベルで意味なくヒジを擦ることはまったくオススメしない。バイクが寝ているうえにライダーの荷重がきちんとかかっていない状態では危険極まりない。

ヒジ擦りは、ヒザ擦りの延長線ではない。安易な挑戦は御法度だ。

プロフェッサー 辻井さんによる解説

Professor
辻井栄一郎

元ヤマハのエンジニア。大学客員教授経験もあり、ニックネームは「プロフェッサー」

強烈に深いバンク角でもハンドルを操作している

MotoGP用タイヤは強烈なグリップ力を発揮しており、私の推定では1.7〜2Gにも達しているようです。 

それだけのハイグリップタイヤを使い切ってコーナリングスピードを高めたいわけですが、もはやマシン自体のバンク角が不足していますね。ステップか、マフラーか、カウルか、車体のどこかを擦ってしまい、もう寝かせられない、という状態です。 

そこでライダーがイン側に大きく体を落とすことで、マシンの見かけ上のバンク角を稼ぐ、という意味もありそうです。 

ライダーと車体のトータルで遠心力と釣り合う実バンク角は、今や約65度にも達しています。ヒジは車体と路面に挟まれ、擦ってしまっているのでしょう。 

前輪への荷重という考え方もありますが、実は非常に難しいこと。グリップコントロールやハンドリングへの影響度の大きさを考えると、むやみにできるものではありません。 

マルク・マルケスが抜きん出ていましたが、骨折以降は彼もスーパーテクニックが発揮できず、以前のようには操れなくなっているほど。青木さんの言う通り、一般ライダーの方はマネしない方がよいと思います。

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