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【バイクを縦方向に操るライテク】曲がれる車体のメカニズム

バンク角の深さなどで“ロール” は意識されやすいが、見逃しがちなのが“ピッチング”。走行するバイクが前後方向に回転する動きのことで、サスペンションの伸縮でも表現される。プロライダーは、車体の姿勢を“縦方向” にも積極的にコントロールし続け、マシンのコーナリングパフォーマンスを引き上げているのだ。

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/トライアンフモーターサイクルズジャパン 
TEL03-6809-5233 http://www.triumphmotorcycles.jp
KTMジャパン TEL03-3527-8885 https://www.ktm.com

キャスター角を立てるとバイクの応答性が高まる

バイクの前輪には必ずキャスター角が付いています。これは直進する際の安定性を高めるために必須で、キャスターが寝ている(角度が大きい)方が、トレール量が長くなり安定志向になります。

そのため一般的にスポーツモデルより、ツーリングユースが多いクルーザーモデルの方がキャスター角が大きいです。キャスター角が立ち(角度が小さくなり)、トレール量が短くなると、ライダーの操作に対する応答性が高まります。簡単に言えばハンドリングがクイックになり、鋭く曲がれる車体姿勢になるのです。 

ペドロサはフロントを巻きこむように転ぶシーンが多かったです。おそらくチームメイトよりもキャスター角は1 ~ 2度立っていたでしょう。実際、現場にいたヤマハのMotoGPスタッフもそう言っていました。小柄な身体でマシンを鋭く操るための選択だったと思われます
極限までキャスターを立てたペドロサの覚悟
ペドロサはフロントを巻きこむように転ぶシーンが多かったです。おそらくチームメイトよりもキャスター角は1 ~ 2度立っていたでしょう。実際、現場にいたヤマハのMotoGPスタッフもそう言っていました。小柄な身体でマシンを鋭く操るための選択だったと思われます

コーナリングにおいては、ブレーキをクリッピング付近まで引きずって、フロントフォークを沈めた状態をキープすることでキャスター角が立ち、バイクにとって「よく曲がる」姿勢を作ることが重要になります。

これらの難解な原理を詳しく知りたい方は、私が本誌に連載中の「二輪動力学からライディングを考察」をご覧ください。

キャスターを立てて応答性を上げると、ハンドリングはクイックになりますがライダーにとっては「怖さ」に繋がります。市販車のキャスター角は、ハンドリングと安心感を両立するように設計されています
立てすぎると不安に感じる
キャスターを立てて応答性を上げると、ハンドリングはクイックになりますがライダーにとっては「怖さ」に繋がります。市販車のキャスター角は、ハンドリングと安心感を両立するように設計されています

ブレーキングによってキャスター角は約5 °も変わる

車種にもよりますが、フルブレーキングによる減速Gでフォークが沈むと、キャスター角は5°も変わることがあります。これはトレール量にして10 ~ 20mmもの変化です。 

トレールが短くなると前輪接地面の加重が増加し、タイヤはよりグリップするようになります。この時の反力をライダーはハンドルを介して感じ取り、「接地感」として認識しているのです。ブレーキによってキャスターが立っている方がダイレクト感が得られ、とても微小な舵角ですが、より正確な操作が可能になります。

逆にサスペンションが固いなどの理由でフォークが沈まず、フロントが高いままだとタイヤの路面追従性、グリップは低下します。するとステアリングに反力が感じられず、車体を傾けることに不安を感じてしまい、そのまま真っ直ぐコースアウトする、なんてケースもありました。

ハンドルに入力しないと車体はバンクしていかない

ライダーはほとんどすべてのシーンでハンドルに入力しています。それはコーナリング中も例外ではありません。それどころかバイクを傾ける際は、イン側に切れようとする前輪をほぼ真っ直ぐに保ち、重心三角形と前輪の接地点のバランスがとれて安定するのを防がないと、バンクしていきません。私はこれを非セルフステアと呼んでいます。

非常に微少な入力ですが、誰でも無意識のうちに必ず行っている操作です。 

非セルフステアを意識的に解除するのは、最も深くバンクする瞬間だけです。それでも「完全に力を抜いている」というケースは少ないでしょう。

セルフステアは車体のバンクを止める作業

よく「セルフステアにして鋭く曲がる」と言いますが、実はセルフステアにするとバンクは止まります。 

バイクが傾くと前輪が切れ込み、転倒しないようにバイク自身がバランスを保とうとします。これがセルフステアですね。それをライダーが微少なハンドル入力で防いでバンクさせているのは前述したとおりです。 

でもそのまま転舵しないようにハンドルに入力していると、いつか転倒してしまいます。そこで一瞬入力をやめ(あるいは減らし)て、前輪の自然な転舵を促します。するとバイクはバランスがとれるので、バンク角は安定します。 

つまり、セルフステアで深くバンクするのではなく、もっとも深くバンクするクリッピング付近でブレーキをリリースし、セルフステを使ってバイクが傾くのを止めている、と言った方が正確かも知れません。

旋回中はキャスター角が寝て安定志向に変わる

セルフステアでバンクする車体を止め、深いバンク角をキープしている時が、一番小さな半径で旋回できる状態です。この時はブレーキレバーを放していますから、キャスター角はブレーキを引きずりながら車体をバンクさせている最中よりも寝ている状態。

スペック上のキャスター角に近くなり安定して旋回することができます。 

この時、遠心力によって前後サスペンションに荷重がかかって少し沈んだ状態になります。車体とライダーの技量に合ったサスセッティングになっていれば、不安なくコーナリングできるはずです。

MotoGPのライドハイトは加速のための姿勢

前後方向のバイクの姿勢という意味では、走行中に車高を下げるライドハイトデバイスも見逃せません。これはコーナリングのためではなく、立ち上がり加速やスタートダッシュの際のトラクション特性向上を目的として開発されました。 

車体の重心が下がることで前進方向に使える駆動力が増し、加速力が高まるというのが最大のメリットで、ウイリーの抑制にも効果を発揮します。 

ただしこれはMotoGPマシンのように高い摩擦係数を持つタイヤがあってこそのデバイスです。市販車に同じ装置を付けても、リアタイヤが滑って上手く加速には繋げられないでしょう。

曲がろうとするバイクをライダーが邪魔している

ここまで述べてきたように、車体の姿勢はコーナリングに大きく影響します。ライダーは積極的にマシンを操って、曲がりやすい姿勢を作らなければいけません。 

一方で、ライダーが余計な操作をするからバイクが曲がらない、というのも事実です。例えは旋回中にフロントブレーキをかけると車体は起き上がって曲がり方が弱くなります。

立ち上がりでスロットルを開けるのが早いと、まだバイクは曲がろうとしているのに、車体が立ってしまいます。不必要な操舵や入力でセルフステアを邪魔したり、逆に不必要なシーンでセルフステアを助長したり……。 

バイクの特性を理解し、正しい操作をすることが、ライディング上達の近道なのです。




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